ウイルソン病(先天性銅代謝異常)・肝レンズ核変性症

ウイルソン病(先天性銅代謝異常)のポイント
遺伝性代謝疾患で治療可能あるいは発症予防可能な疾患です
●ウイルソン病(先天性銅代謝異常)はどんな病気か
体内に銅が蓄積することにより、脳・肝臓・腎臓・眼などが冒される病気です。 遺伝性代謝疾患のうち、数少ない治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。 多くの遺伝性代謝疾患は、いわゆる“難病”とされ、治療が不可能なものが多いのです。しかし、ウイルソソ病 は、治療ができます。また、早期発見により発症を予防することもできるのです。当院でもこどもの風邪症状の時の点滴時の採血で肝機能障害と血清銅低下にて発見されました

●ウイルソン病(先銅異常)の原因は?
銅を輸送する蛋白(ATP7B)の遺伝子異常が原因で、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)する病気です。
★常染色体劣性遺伝とは
変異のある対立遺伝子がホモ接合して初めて発病します(図7)。ヘテロ接合の状態では発病せず、保因者になります。これは、ヘテロ接合で発病する常染色体優性遺伝病とまったく違うところです。  両親がヘテロ接合の保因者の時、その子どもがホモ接合になって発病する確率は25%です。逆にいえば、患者さんの両親は保因者と考えることができます。したがって、患者さんの兄弟姉妹は同じ病気になる可能性が25%であることを念頭におく必要があります。とくに、両親がいとこ婚、ふたいとこ(またいとこ)婚などの近親婚の場合、発症率が高くなることが知られています。  常染色体劣性遺伝病はフェニルケトン尿症(にょうしょう)、アルカプトン尿症など代謝性疾患(たいしゃせいしっかん)に多いことが知られています。同胞(兄弟姉妹)を検査すると確率25%(4分の1)にてウイルソン病であったりしますので、ご家族の検査をおすすめします。 しかし、約30%は突然変異でウイルソン病が発病するため、家族発生のないこともあります。  同じ家系内の患者間では、症状の程度はほぼ同じでばらつきが少ないことは、常染色体優性遺伝病と違う点です。男女で発症率が同じであることは、常染色体に由来する疾患では共通しています。

●ウイルソン病(先天性銅代謝異常)の症状は?
肝臓と脳と目に出ます
ウイルソン病は、多くの場合、3~15歳の小児期に
肝障害にて発見されます。肝症状は、疲れやすかったり、白眼のところや皮膚が黄色(黄疸)くなったりして気づかれます。しかし、多くは無症状にて、血中AST(GOT)・ALT(GPT)など肝機能の異常を指摘され、発見されます。また、急激な肝不全状態となり黄疸や意識障害などを生じ急に死亡してしまうこともあります。さらに、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあります。肝障害は徐々に進行し、思春期すぎには肝硬変になる場合が多くみられます。
脳症状の多くは、思春期ごろからあらわれます。初期においては、ことばが不明瞭になり、何かをしようとすると、手指がふるえたりして字を書くことや細かい作業が下手になり更に進行すると、表情も硬くなり、だんだんと歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、分裂病様の反応を示すようになります。
眼症状として、カイザー・フライシャー角膜輪をみます。黒目の周りに銅が沈着し、青緑色・黒緑褐色に見えます。この角膜輪は、肉眼的にはっきり見えるのは思春期すぎです。  これらの多彩な症状は、すべての患者にでるのではなく、肝型、神経型、肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには死亡したり、荒廃したりします。 しかし早期に発見して適切な治療を開始すれば一生症状無く過ごすことが出ます。

●ウイルソン病(先天性銅代謝異常)はどうして銅が蓄積するのですか?
銅は、微量元素の一つであり必須栄養素です。過剰に摂取すると急性や慢性の銅中毒になります。ウイルソン病は慢性銅中毒によく似ています。食事中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収され、肝に運ばれます。肝にて、銅は、セルロプラスミンという銅結合蛋白質となり、血液中に流れて行きます。また、脳や骨髄(造血器)など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝から胆汁中に排泄され平衡を保っているのです。 しかし、ウイルソン病においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できず、胆汁中へ銅が排泄されず、肝臓に貯まっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳・角膜・腎臓などへ蓄積します。

●ウイルソン病(先天性銅代謝異常)の治療は?
①食事療法
低銅食とします。チョコレート、ナッツ、貝、ドライフルーツ、キノコ類は銅含有量が多いため、食べないようにします。1日摂取量を1.5mg以下にします。
②薬剤療法
銅の排泄を促すために、食間にキレート剤(ペニシラミン、トリエン)を経口投与します。また食後に亜鉛を投与します。 ペニシラミンはゆっくりと増量して ペニシラミンがビタミンB6の働きをおさえるのでビタミンB6の内服も併せて行います。
肝移植
劇症肝炎、肝不全進行例には肝移植の適応となります。
ウイルソン病(先天性銅代謝異常)でもっとも大切な事は早く気づくこと(肝機能障害があるときには血液検査 血中セルロプラスミン低値となる 尿中銅排泄量増加の確認) も大切です。さらに気づいた後一生涯治療をきちんと続けることです。キレート剤(銅が吸収されるのを抑える薬 ペニシラミン)を中止すれば再び体に銅が沈着して肝不全から死亡することもあります。 あらゆる病気の中で薬を中止すると必ず悪くなるピカ一番の病気なのです。

●日常生活、学校、就職、結婚は?
家族内検索により発見された小児例は、発症前型と分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面にわたって健常者と同じ生活を維持することができます。肝硬変があっても、ほぼ通常に生活することができます。結婚、出産(女性)などもあまり悩むことはないのですが、遺伝相談を受けて、よく理解する必要があるでしょう。   このようにウイルソン病は恐ろしい病気ですが、治療や発症予防ができます。病気が進まないうちに早期発見のため、検査を受けましょう。検査は、採血して血液中のセルロプラスミンを測定するものです。(血中セルロプラスミン低値を示さないウイルソン病患者さんが20人に1人ぐらいいますので、ご注意ください。)
●血清銅・・・10~100μg/dl
●セルロプラスミン→低下(20mg/ml以下)
●尿中銅排泄・・・・80~800μg/日
●肝生検
・門脈周囲の線維化から粗大結節状の肝硬変まで様々。
・銅染色で不規則顆粒状パターン
●肝銅含有量・・・250μg/g肝乾燥重量
●Kayser-Fleischer環の証明・・・角膜に
(ノベルジンカプセル)が薬価収載・保険適用となり新発売されました(ノーベルファーマ社製造、アルフレッサファーマ社発売)。すでに、亜鉛薬を使用されていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。  D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン(メタライト-250)を使用されていて、何ら問題のない方々は、そのまま今まで通りの治療でよいと思います。