精神遅滞

症状イメージ

精神遅滞のポイント
●精神遅滞とはどんな病気か
精神遅滞は、知的機能が全般的に平均よりも低く、環境に適応することが困難な状態を示す言葉です。日常生活において何らかの援助や介助が必要となります。 日常生活の活動とは、(1)人とコミュニケーションすること、(2)自宅で生活すること、(3)意思決定を含め身のまわりのことを自分ですること、(4)余暇活動、社会活動、学校活動、作業活動などへの参加、(5)健康と安全に注意すること、などです。

●精神遅滞の原因は何か
多くは原因不明です。原因として想定されているものは以下に示すようにさまざまです。感染症(髄膜炎(ずいまくえん)、脳炎など)、頭部外傷、代謝異常症、染色体(せんしょくたい)異常、出生前要因(子宮内胎児発育遅延(しきゅうないたいじはついくちえん)、母体のアルコール摂取など)などがあります。
精神遅滞の原因
受胎前または受胎時 
遺伝性疾患(フェニルケトン尿症、甲状腺機能低下症、脆弱X症候群など)
染色体異常(ダウン症候群など)
妊娠中の問題
母体の栄養状態が非常に悪い
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスによる感染症。トキソプラズマ症、百日ぜき
毒物(アルコール、鉛、メチル水銀)
薬物(フェニトイン、バルプロ酸、イソトレチノイン、癌の化学療法)
脳の発達の異常(二分脊椎、髄膜瘤)
分娩時の問題 
酸素量の不足(低酸素症)
極端な早産
出生後の問題
脳感染症(髄膜炎、脳炎)
脳の重篤な外傷
栄養不良
重度の情緒面でのネグレクトあるいは虐待 毒素(鉛、水銀)
脳腫瘍とその治療

●精神遅滞の症状の現れ方
一般に、重度の精神遅滞の子どもは首のすわりが遅い、座ることができないなど、運動の発達が遅いことで乳児期に気づきます。  一方、軽度から中等度の精神遅滞の場合には、初めの数年間は正常な発達をしているようにみえ、バイバイをしないことや言葉が出ないことなど、言語や社会性の発達の遅れで気づきます。  全般的な知能が低いために、日常生活や社会生活に障害が生じ、身のまわりのこと(食事、衣服の着脱、トイレでの排便、排尿)が一人でうまくできない、同じ年齢の子どもと遊ばない、といった症状がみられます。小学校に入って、集団生活に適応できないために問題行動が目立ち、初めて精神遅滞に気づくこともあります。 精神遅滞の子供は他の子供よりも行動面での問題を抱えることがやや多い傾向があり、突然、怒りを爆発させたり、かんしゃくを起こす、攻撃的な行動をするといったことがみられます。このような行動は彼らのコミュニケーション能力や衝動を抑える力が不足しているためで、欲求不満を感じる状況をさらに悪化させてしまうことになります。年長児はだまされやすく、ささいな犯罪に引きずり込まれる傾向があります。 精神遅滞の人の約10?40%には精神疾患もみられます(重複診断)。特にうつ病はよくみられるもので、自分が友達とは違うことに気づいた子供や、障害があることで中傷や虐待を受けた子供によくみられます。

●精神遅滞の検査と診断
まず、発達の遅れがあるかどうか、成長障害や身体的な病気の有無も含めて小児科医の診察を受ける必要があります。発達の遅れがあると判断される場合には、知的水準を測る方法として知能検査や行動観察が行われます。これらの検査は、発達の遅れている点を明らかにするだけでなく、子どもの優れた能力を見いだすことにもなります。  専門医であっても、一度の診察や検査で長期的な発達の予測をすることは困難です。時間をあけて診察し、発達の経過も併せて判断することが必要です。合併する身体の病気が予想される場合には、必要な検査を定期的に行うことがあります。たとえば、てんかんの合併が考えられる場合には脳波検査を行います。 言語の習得や社会的能力の習得が遅れている子供では、精神遅滞以外の障害や病気が原因になっている場合があります。たとえば聴覚障害は言語や社会性の発達を阻害するので、聴覚検査はよく行われます。情緒障害や学習障害も精神遅滞と誤認されることがあります。健全な愛情や関心を向けられることが長期にわたって欠落している子供(児童虐待とネグレクト: 身体的ネグレクトを参照)は、精神発達が遅れているようにみえることがあります。座ったり立ったりすること(粗大運動技能習熟)や手でものを操作すること(繊細運動技能習熟)が遅い子供は、精神遅滞とは関係のない神経性疾患をもつ可能性があります。 精神遅滞の子供にとっては、自宅で生活するのが最も良いことです。しかし、自宅ではこのような子供のケアが十分できない家庭もあります。特に子供の障害が重く、複雑な場合には自宅でのケアが困難になります。子供がどこで生活するかを決めるのは難しく、家族と支援や医療にかかわるチーム全員が話し合う必要があります。重い障害をもつ子供を自宅でケアするのはかなり大変なことで、付きっきりで世話をしなくてはならないこともあり、多くの親にとっては困難を伴います。心理的な支援を医師やソーシャルワーカなどに受けつつ対処すると良いでしょう

●精神遅滞の治療
治療の中心は教育と訓練です。身体機能訓練、言語訓練、作業療法、心理カウンセリングなどを開始し、現実的で達成可能な目標を定め、訓練・教育を行うことにより、子どものもつ発達の可能性を最大限に発揮させることができます。  心理的な問題に対しては、カウンセリングや環境の調整を行います。十分に行き届いた指導やサポートのためには、個別や少人数集団の、特別な教育環境が必要になります。  長期的には、身のまわりのことが一人でできるようになること、将来の職業につながるような技能を身につけることが目標となります。  合併する身体疾患(てんかんなど)や行動の問題(自傷行為(じしょうこうい)など)に対しては、症状を改善させる目的で薬物療法を行うことがあります

●精神遅滞に気づいたらどうする
精神遅滞の子どもの抱える問題点は、年齢や発達段階によって変化します。大切なことは、年齢や発達の段階によって直面するハンディキャップを理解し、子どもの能力に見合った訓練方法や教育手段を選ぶことです。  小児科医、発達相談、地域の発達支援プログラムなどを利用して情報を得るとよいでしょう

●支援の必要性
夢や希望をもつ
発達障がいといっても状態像は十人十色です。また、同じ診断名でも、その人の個性や発達の状況、年齢や暮らす環境などによって目に見える症状は異なります。そして、発達障がいが病気のように「完全に治る」ことはありませんが、成長しないという訳ではありません。周囲が発達障がいを理解して、日々のサポートや育ちを応援することで、確実に成長していき、将来的にはその人なりの自立した豊かな社会生活を送ることができるカを持っています。

支援に対して大切なこと
発達障がいのある人が、その人なりの自立した豊かな社会生活をおくるためには、周囲が発達障がいの特性を理解し、幼少期からの暖かくて穏やかな人間関係や、「一貫した継続的支援」を必要とします。  周囲の理解や支援が得られず、摩擦や衝突の多い状況では、本来の障がいそのものがもたらす“問題”よりも、環境からの“二次的な問題”が大きくなります。こうなると、たとえ知的な能力は高くても社会生活を営むカや心が育ちにくくなります。  こうしたことからも、早期発見・早期療育は、子ども自身のよりよい育ちを応援するだけではなく、家族の障がい受容・理解をすすめ、前向きな養育支援を行っていくことからも大切になってきます。  また、乳幼児期から学童期、学童期から成人期へと、各ライフステージにわたって継続的に支援をするためには、福祉、教育、医療、労働等の各関係機関との「連携」が不可欠です。