網膜芽細胞腫

症状イメージ

網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)のポイント
目の網膜にできるガンです
●網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)はどんな病気か
網膜芽細胞腫とは、眼の後ろ側にあって光を感じる部位である網膜に発生する癌です。 この病気は小児癌の約2%を占め、ほとんどは4歳未満の子供に発症します。この病気の20~30%の子供では、両眼に 同時に発症します。この癌は眼の発達をつかさどる特定の遺伝子が損傷を受けたために起こります。この遺伝子の損傷は 親から子供に引き継がれる場合も、胎児期のごく初期の段階で起きることもあります。胎児期 の後期になって、眼の細胞の遺伝子だけに損傷が起きる場合もあります。この場合は子孫には引き継がれません。 網膜芽細胞腫が両眼に発症した子供のすべてと、片眼だけに発症した子供の20%は遺伝性のものです。 網膜芽細胞腫は視神経(眼から脳に通じる神経)を通って脳に転移することがよくあります。それ以外の臓器、 たとえば骨髄などにも転移します。網膜の白い腫瘍が光に反射して、ネコの眼のように白く光って見えることで発見されることがよくあります。

●網膜芽細胞腫の症状と診断
初期の段階ではあまり症状がありませんが、ある程度進行すると暗いところでネコの眼のように瞳(ひとみ)が光って見えます。網膜の中心にがんができると物を見つめることができなくなり、瞳の位置がずれる斜視(しゃし)になることもあります。そのほか結膜の充血、視力の低下や、緑内障(りょくないしょう)を起こして眼を痛がることもあります。脳に転移すると頭痛や嘔吐を起こします。

網膜芽細胞腫の疑いがある場合は子供に全身麻酔を施し、水晶体と虹彩を通して両眼の網膜を観察して検査します。 網膜芽細胞腫の診断を下すには慎重に時間をかけて検査する必要がありますが、その間乳児をおとなしくさせているの は無理なので全身麻酔が必要となります。CT検査やMRI検査でも癌は特定できます。いずれの検査でも、癌が脳に 転移していないかどうかを確認できます。脳脊髄液(脊髄穿刺[腰椎穿刺]で採取)に癌細胞があるかどうかも調べます。 この中に癌細胞が検出された場合は、癌が脳に転移した徴候です。この癌は骨髄にも転移するおそれがあるので、骨髄 を採取して検査します。

●網膜芽細胞腫の治療とその後は
治療しないと、網膜芽細胞腫の子供の多くは2年以内に死亡します。しかし治療をすれば、90%以上の子供が治ります。片側の眼だけに発症していて、その眼にほとんど、またはまったく視力がない場合は、視神経とともに眼球を摘出します。罹患した眼にかなり視力が残っている場合や両眼が罹患している場合は化学療法を行い、手術を避けて眼球を温存できるように努めます。化学療法薬としては、エトポシド、カルボプラチン、ビンクリスチン、シクロホスファミドなどを用います。化学療法で癌が完全になくなることもあります。または癌がかなり小さくなって、残りの部分はレーザー療法、凍結(超低温)プローブ、放射性物質を含むアイマスクなどで除去できる程度になることもあります。これらの治療法でも癌が消えない場合は、眼球を摘出するか放射線療法を行います。両方の眼球摘出が必要になることもあります。化学療法は、癌が眼以外の部位に転移した場合や初期治療の後に癌が再発した場合にも行います。 眼に対する放射線療法は、白内障、視力低下、慢性的なドライアイ、眼の周辺組織の衰弱などの重大な影響をもたらします。子供の顔面の骨が正常に発達せず、異常が生じる例もあります。 治療後は2~4カ月ごとに眼の診察を行い、癌の再発がないかどうかを調べます。遺伝性の網膜芽細胞腫がある子供は、癌が再発する率がかなり高くなります。さらに、遺伝性の網膜芽細胞種がある子供の50%は、診断から50年以内に軟部組織肉腫、メラノーマ、骨肉腫などの二次癌を発症します。網膜芽細胞腫がある子供の近親者は、定期的な眼科検診を受ける方がよいでしょう。家族内にほかに幼い子供がいる場合は網膜芽細胞腫の検査を、家族内の大人は網膜細胞腫の検査を受ける必要があります。網膜細胞腫とは同じ遺伝子から起こる非癌性の腫瘍です。癌の症状がみられない家族は、網膜芽細胞腫の遺伝子がないかどうかを調べるDNA分析検査を受けることもできます。

●網膜芽細胞腫に気づいたら 注意点は?
眼がネコのように光って見える時は、急いで眼科を受診してください。遺伝性があるので、家族に患者がいる場合は子どもの眼の様子を時々観察します。小児がんのなかでは治癒率が高いがんなので、初期のうちに発見することが望まれます。