パーキンソン病(PD)
頻度★★★
要点
パーキンソン病(PD)とは、中脳黒質のドパミン産生神経細胞が減少する運動障害の病気です。広範なレビー小体の蓄積を反映し、非運動症状を含めた多彩な症状を呈する病気と考えられています。パーキンソン病(PD)は、神経変性疾患のなかではアルツハイマー型認知症に次いで多く、L-ドパ補充療法が有効であるため、その診断は大切です。指定難病であり、Hoehn&Yahr(ホーン・ヤール)分類で重症度3度以上かつ生活機能障害度2以上の場合、申請し認定されると保険料の自己負担分の一部が公費負担として助成されます。

ヤールI度  体の片側のみの軽度の症状
ヤールII度  体の両側に症状あり 姿勢反射障害はない
ヤールIII度  体の両側に症状あり 姿勢反射障害がある
ヤールIV度  起立・歩行はなんとかできる 日常生活に介助が必要なことがある
ヤールV度  一人で起立・歩行ができない 日常生活に介助が必要 車いすや寝たきりの生活

生活障害度 1度 日常生活、通院に介助を必要としない ヤールⅠ~Ⅱ度
2度 日常生活、通院に介助を必要とする  ヤールⅢ~Ⅳ度
3度 日常生活に全面的な介助を必要とする ヤールⅤ度

(1)パーキンソン病の診断
 4大運動症状
①安静時振戦(じっとしているときに手や足がの震える片手→両手へ)、本態性振戦ではない(震えが左右対称、それ以外症状なし)
②無動(動きが遅い)・寡動(動かすまでに時間がかかり、ゆっくりした動作しか出来ないこと)、
③筋強剛(腕や脚を動かすと、ガクガクガクと引っかかるような抵抗)、
④姿勢反射障害(少し押すと姿勢を直せず転ぶ)
それ以外にも自律神経症状、感覚症状、精神症状などの多彩な非運動症状が出現します。
厚生労働省の診断基準
1. 経過が進行性
2. 自覚症状として、安静時振戦、動作緩慢、歩行障害のうちの1つ以上
3. 神経所見で上記4大症状(①安静時振戦、②無動・寡動、③筋強剛、④姿勢反射障害)のうちの1つ以上が認められること
4. 抗PD薬で自覚症状・神経所見が改善すること
5. 脳血管障害、薬剤性、その他の脳変性疾患が鑑別できること

鑑別疾患では
振戦を来す疾患として、
①本態性振戦(震えが左右対称、それ以外症状なし)、
②甲状腺機能亢進症(手の震え・動悸・体重減少・イライラ・排便回数増加)
動作緩慢、歩行障害を来す疾患として、
①レビー小体型認知症
②正常圧水頭症
③多系統萎縮症
④進行性核上性麻痺などがあります。

(2)パーキンソン治療は(初期治療)
パーキンソン病の初期治療(動作緩慢、歩行障害改善が目的)
 仕事や生活に支障なし→定期的診察・リハビリ
仕事や生活に支障あり
→高齢(70~75 歳以上)・認知機能障害・精神症状のいずれかあり→ L-ドパ治療開始
→高齢(70~75 歳以上)・認知機能障害・精神症状のいずれかなし
→当面症状改善を急ぐ事情あり →L-ドパで治療開始 →症状改善十分でない→L-ドハ増量またはドパミンアゴニスト追加
→症状改善十分  →ドパミンアゴニスト追加してL-ドパ減量
→症状改善を急がない→ドパミンアゴニストで治療開始 →症状改善十分でない→ドパミンアゴニストにLドパ併用
→症状改善十分  →ドパミンアゴニスト追加してL-ドパ減量

○治療の中心はL-ドパとドパミンアゴニスト+補助薬を症状に応じて合わせて治療します。L-ドパの早期治療で、運動機能はよい状態に維持されます。
○非高齢者で精神症状、認知機能障害がない場合は、ドパミンアゴニストで開始し、効果が不十分な場合はL-ドパを併用します。このやり方の方が運動合併症が減ります。
○高齢者、精神症状、認知機能障害のある場合など安全性に特に注意が必要な場合、あるいは運動症状改善の必要性が高い場合は、L-ドパで治療を開始します。
○進行期PD患者では、ドパミンアゴニストとL-ドパ併用療法は、運動機能改善に有用です。
○薬剤は徐々に加え、幻覚・妄想、覚醒障害(日中過眠、突発的睡眠)、心不全徴候、衝動制御障害、セロトニン症候群など薬剤の副作用をうたがわせる症状がでたら、医師に伝えることが大切です。認めた際には、パーキンソン病増悪によるものか、または原因可能性のある薬剤を中止し症状の経過を見ます。パーキンソン病の進行からも幻覚・妄想・構語障害・起立性低血圧・性機能排尿異常などの症状もみとめられ薬剤自己中止などの勝手に判断せず医師によく相談しましょう。薬剤によっては中止により教則に病状が悪化することがあります。

(2)パーキンソン治療は(進行期の症状の治療)
ポイント:
初期治療は、動作緩慢、歩行障害の改善が治療目標を進めることが多いが、病勢が進行するにつれて、幻覚・妄想、振戦、姿勢異常、睡眠障害、うつ症状などの様々な症状を認め、それらの症状への治療が必要になる。
各症状の治療:

①幻覚・妄想の治療
幻覚・妄想が生活に支障がある場合に治療します
追加薬剤チェックと中止→
抗コリン剤(線条体からの指令を受け取る神経細胞のアセチルコリン受容体の働きを抑え、ドーパミンとアセチルコインのバランス改善)の中止
アマンタジン(ドパミン放出促進薬)の中止
セレギリン(選択的MAO-B阻害薬)の中止して改善するか しないときには
→ドパミンアゴニスト減量中止・エンカタポン中止・ゾニサミド中止 中止して改善するか しない
→L-ドパ減量 改善するか しない
→コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチ)を併用してみる 改善するか しない
→非定型抗精神病薬→定型的抗精神病薬
L-ドパ、ドパミンアゴニストの薬剤調節を行い、効果不十分時は、ドネペジル(アリセプト)や、錐体外路障害の少ない抗精神病薬であるクエチアピン(セロクエル)の投与も検討する。

振戦の治療: >詳細情報
パーキンソン病の振戦は、主として静止時に生じるため、強剛・無動と比べて治療の目標としての優先順位は低い傾向があるが、社会的生活に影響を与えている場合や患者が希望する場合は、合併症の出現に注意しながら治療を行う。振戦に強剛・無動を伴っていない若年者の場合は、抗コリン薬であるトリヘキシフェニジル(アーテン)を開始する。高齢者や強剛・無動を伴う場合は、強剛・無動の治療と同様にL-ドパ、ドパミンアゴニストの薬剤による治療を行う。
すくみ足の治療: >詳細情報
wearing offのoff時に生じるすくみ足は、wearing offに準じて加療を行う。また、視覚のキュー(床にテープなどを貼る、L字型のつえなど)、聴覚のキュー(メトロノーム、携帯のリズム振動発生装置による二拍子のリズムなど)などが役に立つことがある。
姿勢異常の治療: >詳細情報
L-ドパの増量、ドパミンアゴニストの減量などを検討する。併行して背筋強化訓練などの理学療法を行う。
嚥下障害、流涎、構音障害の治療: >詳細情報
嚥下障害・構音障害は、原因の評価に基づいて加療を行う。並行して言語聴覚士(ST)の導入を行う。
流涎に関しては、抗コリン薬(イプラトロピウム)のスプレーの使用などが効果があるとの報告があるが、わが国では保険適用はない。
睡眠障害・覚醒障害の加療: >詳細情報
睡眠障害の背景に基づき眠剤などによる加療を行う。
うつ・アパシーの加療: >詳細情報
ドパミンアゴニストやセレギリンが無効な場合、うつ病の加療に準じて、SSRIなどによる治療を行う。
疲労・起立性低血圧・性機能障害・排尿障害の加療: >詳細情報
起立性低血圧に対してはドロキシドパ(ドプス)など、性機能障害に対してはシルデナフィル(バイアグラ)などを用いて、それぞれの症状治療を行う。

 

(1)ウェアリング・オフ現象、wearing off現象の治療
L-ドーパの長期使用に伴う副作用。薬効時間の短縮→次の服用までにパーキンソニズム出現する現象
対策 L-ドパを一日3~4回投与 または ドパミンアゴニストを開始・増量・変更
→ジスキネジアあり
→エンタカポン(L-ドパ作用時間を伸ばす末梢COMT阻害薬) セレギリン(選択的MAO-B阻害薬) ゾニサミド(抗てんかん薬)
→ジスキネジアなし
→L-ドパ一回量減量しエンタカポンまたはゾニサミンド併用
→それでも改善無ければ L-ドパの頻回投与またはドパミンアゴニスト(ドパミン受容体の活動up薬)変更増量
(1)peak-doseジスキネジアの治療
L-ドーパが効いている時間帯に出現する不随意運動 生活に支障がある場合
→セレギリン(選択的MAO阻害薬)中止・エンタカポン(末梢COMT阻害薬)中止
→L-ドパ一回量減量して頻回投与・投与回数を増やす
→L-ドパ一日総量を減らしてドパミンアゴニスト(ドパミン受容体の活動up薬)で補充
→アマンタジン(ドパミン放出促進) 追加

★ジスキネジアとは本人の意思に反して手や足、口、舌などがくねくねと動く症状
口舌ジスキネジア→顔面、特に口の周囲、舌を中心とする不随意運動。
舞踊運動→手足、頸、体幹の滑らかで早い不随意運動
ピークドースpeak-doseジスキネジア→L-ドーパが効いている時間帯に出現する不随意運動。
オンセットアンドエンドオブドースジスキネジア→L-ドーパが効き始めるときと、効果が消退するときに出現する不随運動。

エンタカポン レボドパを代謝する末梢のCOMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)という酵素を選択的に阻害します。その結果、レボドパの血中半減期が延長、レボドパの脳内移行が高まり、作用持続時間がより長くなります。このような作用機序から、末梢COMT阻害薬と呼ばれています。

 

 

①安静時振戦(じっとしているときに手や足がの震える片手→両手へ)、本態性振戦ではない(震えが左右対称、それ以外症状なし)
②無動(動きが遅い)・寡動(動かすまでに時間がかかり、ゆっくりした動作しか出来ないこと)、
③筋強剛(腕や脚を動かすと、ガクガクガクと引っかかるような抵抗)、
④姿勢反射障害(少し押すと姿勢を直せず転ぶ)
それ以外にも自律神経症状、感覚症状、精神症

ウェアリング・オフ(ウェアリング・オフ現象、wearing off現象)L-ドーパの長期使用に伴う副作用として説明されるものです。
薬の効いている時間が短くなってしまったために、服薬後しばらくは調子がいいですが、次に薬を飲む時間が来るまでに、パーキンソニズムがまた現れる現象です。
オン・オフ(オン・オフ現象、on-off現象)同じようにくすりを飲んでいるのに、その効果が突然現れたり、突然弱くなったり悪くなったりする現象。
薬を飲む時間に関係なく起きる点で、ウェアリング・オフと区別されます。
一方、ウェアリング・オフ現象と、オン・オフ現象を合わせて「症状の日内変動」ということばで説明されることもよくあります。一日の中で体の動きの良いときと悪いときの差が大きくなる状態をさします。オフ(off現象)薬の効果が電気を切ったように突然効かなくなる現象。ジスキネジア(dyskinesia)  運動異常。通常の随意運動が妨げられ、あるいは異常な動きが出現すること。
医学用語では、自分の意思で行える運動を「随意運動(ずいいうんどう)」と、これに対して、止めようにも止められない、自分の意思で抑制できない運動を「不随意運動」と言いますが、パーキンソン病の治療では、特にL-ドーパの長期使用に伴って出現する不随意運動を総称して、「ジスキネジア」ということばがよく使われます。
本人の意思に反して手や足、口、舌などがくねくねと動いてしまうのがその症状ですが、その不随意運動のタイプや発生する時期によって、次のことばで表現される場合もあります。

口舌(こうぜつ)ジスキネジア
顔面、特に口の周囲、舌を中心とする不随意運動。
舞踊運動
手足、頸(くび)、体幹(たいかん;体の中心部分)にあらわれる滑らかで早い不随意運動
ピークドースジスキネジア
L-ドーパが効いている時間帯に出現する不随意運動。
オンセットアンドエンドオブドースジスキネジア
L-ドーパが効き始めるときと、効果が消退するときに出現する不随運動。

ジストニア(dystonia)手足、頸(くび)、体幹にあらわれる異常肢位やゆっくりとした不随意運動のこと。
同じく、L-ドーパの長期使用に伴う副作用として説明されるものですが、ジスキネジアとは反対に、薬が切れてくるときに現れる起きる現象です。
足の指が曲がったままになって元に戻せないといった症状が「異常肢位」にあたります。