息切れや症状がなくても見つかる「肺の血管の近道」- 肺動静脈瘻(はいどうじょうみゃくろう)とは?

はじめに:当院で見つかった「症状のない」肺動静脈瘻

「自分は健康だと思っていたのに、精密検査で思いがけない病気が見つかった」―― そんなことが現実に起こる場合があります。

最近、江副クリニックでは、1年の間に2名の方から「肺動静脈瘻(はいどうじょうみゃくろう)」という、少し珍しい病気が見つかりました。お二方とも、息切れや胸の苦しさといった自覚症状は全くなく、健康診断の胸のレントゲン写真でも異常はありませんでした。

当院で心臓の冠動脈CT検査を行った際に、偶然、肺の血管に異常の可能性があることが分かり、専門である吉田クリニックの吉田克守先生にご紹介し、診断に至ったのです。そのうちお一人は40代の方で、ご本人も気づいていなかった脳梗塞(ラクナ梗塞)が頭部MRIで発見されました。まさか肺の血管がその原因である可能性があったとは、思いもしなかったことでしょう。もうお一人は70代の女性で、幸いにも脳には全く異常はありませんでした。

この経験から私たちが強く感じているのは、「症状がないから大丈夫」とは限らないということです。このページでは、あまり聞き慣れない「肺動静脈瘻」という病気について、そして、なぜ症状がなくても注意が必要なのかを、できるだけ分かりやすくご説明します。

第1章:そもそも「肺動静脈瘻」ってどんな病気?

私たちの体では、心臓から送り出された血液は「動脈」を通り、全身に酸素を届けた後、「静脈」を通って心臓に戻ります。そして、心臓から肺に送られた血液(静脈血)は、肺の中にある髪の毛のように細い「毛細血管」で、新しい酸素を受け取ってきれいな血液(動脈血)になり、再び心臓へと戻っていきます。

ところが、「肺動静脈瘻」という状態では、**肺の中で動脈と静脈が、この毛細血管を飛び越えて直接つながってしまう「近道(バイパス)」**ができてしまっています。これが「瘻(ろう)」と呼ばれるものです。

この「近道」があると、体にとって2つの大きな問題が起こります。

  1. 酸素の取り込みが不十分に(低酸素血症) 血液の一部が、酸素交換を行う毛細血管を通らずに近道をしてしまうため、酸素を十分に取り込めないまま全身に送られてしまいます。近道が大きいと、息切れや爪の色が紫色になる「チアノーゼ」といった症状が出ることがあります。
  2. 肺の「フィルター機能」が働かない(塞栓症のリスク) 実は、肺の毛細血管にはもう一つ、非常に大切な役割があります。それは、全身を巡る血液の中に紛れ込んだ**小さな血の塊(血栓)や細菌などを、網の目のように濾し取って脳や心臓といった大切な臓器へ流れていかないようにする「フィルター」**の役割です。 しかし、この病気があると、フィルターである毛細血管を素通りしてしまうため、本来ならここで止められるはずの血栓や細菌が、近道を通って直接脳に到達してしまう危険性があるのです。

第2章:なぜ症状がなくても治療が必要なの? – 脳梗塞や脳膿瘍の危険性

この病気の最も怖い点は、息切れなどの自覚症状が全くなくても、ある日突然、脳梗塞や脳膿瘍(のうのうよう:脳に細菌の塊ができる病気)を引き起こす可能性があることです。

当院で見つかった40代の患者さんのように、高血圧などの生活習慣病リスクが低い方が脳梗塞を起こした場合、その原因を探ると、この肺動静脈瘻が隠れていることがあります。これは、足などでできた小さな血の塊が、肺のフィルターをすり抜けて脳の血管に詰まってしまう「奇異性塞栓症(きいせいそくせんしょう)」と呼ばれるものです。

ですから、たとえ今は全く症状がなくても、この「近道」が見つかった場合は、将来の脳梗塞などのリスクを減らすために治療を検討することが非常に重要になります。

第3章:どんな症状があるの?遺伝との関係は?

症状は、血管の近道の大きさや数によって人それぞれです。多くの方は無症状ですが、以下のような症状や特徴が見られることがあります。

  • 呼吸器の症状: 坂道や階段での息切れ、横になるより座っている方が呼吸が楽に感じる
  • 低酸素のサイン: 爪や唇が紫色っぽい、指先が太鼓のばちのように丸くなる(ばち指)
  • 出血の症状: 繰り返し鼻血が出る、痰に血が混じる
  • 皮膚や粘膜の症状: 唇や舌、指先に赤い点(毛細血管拡張)が見られる

特に「繰り返す鼻血」や「皮膚の赤い点」は、**「遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)」**という遺伝性の病気の特徴でもあり、このHHTを持つ方のうち、数人に一人は肺動静脈瘻を持っていると言われています。ご家族に同じような症状の方がいる場合は、一度ご相談ください。

第4章:どうやって見つけるの?どんな治療をするの?

【検査】 当院の患者さんのように、心臓など他の目的で行ったCT検査で偶然発見されることがあります。疑わしい影が見つかった場合は、以下のような精密検査を行います。

  • 造影CT検査: 血管の状態を3Dで詳しく調べ、近道の場所や形を正確に把握します。
  • 造影心エコー(バブルエコー): 点滴から微細な泡を流し、それが肺の近道を通って心臓の左側(本来は泡が到達しない場所)に現れるかを確認する、非常に感度の高い検査です。

【治療】 現在の治療の主流は、体に負担の少ない**「カテーテル治療」です。 足の付け根などの血管からカテーテルという細い管を入れ、レントゲンで見ながら肺の血管の「近道」まで進めていきます。そして、その近道に金属製のコイルやプラグといった「栓」をして、血液が流れないように塞いでしまう治療**です。 体に大きな傷をつけることなく治療が可能で、入院期間も短く済みます。

江副クリニックからのメッセージ

当院で肺動静脈瘻が見つかったお二人は、自覚症状が全くありませんでした。その後、九州大学病院にご紹介した患者さんから、「大学病院の先生から『珍しい病気ですね。九大でも今年2例目ですよ』と言われました」というお話を伺いました。実はその2例とも当院からご紹介した患者さんだったという、驚くような偶然もありました。

「私たちが日頃から注意深く診察しているからこその発見でした」と申し上げたいところですが、正直に申しますと、これは近隣の吉田クリニック・吉田克守先生にご紹介し、先生の専門的な視点でCT画像を確認していただいた際に偶然見つけていただいたものです。

この経験は、私たちに二つの大切なことを教えてくれました。一つは、地域の中でクリニック同士が連携し、専門的な視点を共有することの重要性です。そしてもう一つは、「症状がないから、健康診断で異常がないから」といって、安心とは限らないという事実です。

特に、原因のはっきりしない脳梗塞を経験された方や、ご家族に鼻血を繰り返す方がいる場合などは、一度かかりつけの先生にご相談されることをお勧めします。