過敏性腸症候群

症状イメージ

つらいお腹の不調、くり返す腹痛や便秘・下痢でお悩みではありませんか?~過敏性腸症候群(IBS)について~

「通勤・通学の電車でお腹が痛くなる」「大切な会議の前に限ってトイレに行きたくなる」「原因がわからない便秘や下痢をずっと繰り返している」

このようなつらいお腹の症状で、日々の生活に悩みを抱えていらっしゃる方はいませんか? 検査をしても特に異常が見つからないのに、お腹の不調が続く場合、それは「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。

過敏性腸症候群は、決して珍しい病気ではありません。日本人のおよそ10人に1人がこの症状に悩んでいると言われています。しかし、そのつらさはご本人にしか分からないもの。当院では、お一人おひとりの症状とライフスタイルに寄り添い、心と体の両面からサポートすることを目指しています。

過敏性腸症候群(IBS)とは? ― 新しい考え方

以前は、過敏性腸症候群は主にストレスや体質が原因の「機能性(異常が見つからない)の病気」と考えられてきました。もちろん、ストレスは大きな要因の一つです。

しかし最近の研究では、IBSは**「脳と腸の連携(脳腸相関)の乱れ」**によって起こる病気であるという考え方が主流になっています。

私たちの脳と腸は、自律神経などを通じて常にお互いに情報を交換し、影響を与え合っています。例えば、脳がストレスを感じると、その信号が腸に伝わって急にお腹が痛くなったり、下痢をしたりします。逆に、腸内環境の乱れといった腸からの不調信号が脳に伝わり、不安な気持ちを引き起こすこともあります。

このように、IBSは「気のせい」や「弱いから」ではなく、脳と腸のコミュニケーションシステムに不調が生じている状態なのです。

「もしかしてIBSかも?」と思ったら ― 診断について

当院では、国際的な診断基準(Rome IV基準)を参考に、丁寧な問診を通じて診断を行います。

【IBSの診断の目安】 最近3ヶ月の間に、週に1回以上お腹の痛みが繰り返し起こり、その痛みが以下のうち2つ以上当てはまる場合。

  1. 排便によって痛みが和らぐ(またはひどくなる)
  2. お腹が痛いときは、便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
  3. お腹が痛いときは、便の形や硬さが変わる(軟らかくなったり硬くなったりする)

さらに、便の状態によって、主に3つのタイプに分けられます。ご自身のタイプを知ることが、適切な治療への第一歩となります。

  • 便秘型(IBS-C):硬くコロコロした便が多い
  • 下痢型(IBS-D):軟らかい便や水のような便が多い
  • 混合型(IBS-M):便秘と下痢を繰り返す

【重要】自己判断はせず、まずはご相談ください IBSと似た症状でも、他の病気が隠れている可能性があります。特に以下のような「警告徴候」がある場合は、詳しい検査が必要です。

  • 意図しない体重減少
  • 便に血が混じる
  • 夜中に腹痛や下痢で目が覚める
  • 発熱
  • 50歳以上で初めて症状が出た

気になる症状があれば、安心してご相談ください。

IBSのさまざまな原因 ― なぜ脳と腸の連携が乱れるの?

脳と腸の連携が乱れる原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

  • 腸内細菌のバランスの乱れ:私たちの腸には多種多様な細菌が暮らしており、「腸内フローラ」を形成しています。このバランスが崩れると、腸の不調や脳への信号にも影響が出ることがあります。
  • 腸の知覚過敏・ごく弱い炎症:腸がさまざまな刺激に対して敏感になっており、普通なら気にならないわずかな動きやガスでも、強い痛みとして感じてしまうことがあります。また、内視鏡では見えないレベルのごく弱い炎症が関係していることも分かってきました。
  • 特定の食べ物の影響:小腸で吸収されにくく、お腹の張りやガスの原因になりやすい特定の糖質**「FODMAP(フォドマップ)」**が、症状の引き金になっていることがあります。

当院での治療アプローチ ― 一人ひとりに合わせた優しい治療を

IBSの治療は、画一的なものではありません。患者様それぞれの症状のタイプ、ライフスタイル、そしてお悩みに合わせて、いくつかの治療法を組み合わせていきます。

1. 生活習慣・食事の見直し 治療の基本は、毎日の生活を見直すことです。

  • 規則正しい生活:3食をなるべく決まった時間に摂り、十分な睡眠と休息を心がけましょう。
  • 食事内容のアドバイス:脂肪の多い食事やアルコール、香辛料の強いもの、カフェインなどを控えることで症状が和らぐことがあります。
  • 低FODMAP(フォドマップ)食:お腹の不調の原因となりやすい特定の糖質(FODMAP)を一時的に減らし、ご自身に合わない食品を見つけていく専門的な食事療法です。この食事療法は、自己流で行うと栄養が偏ってしまうこともあるため、医師や専門家の指導のもとで丁寧に進めることが大切です。

2. お薬による治療 生活習慣の改善だけでは症状がコントロールできない場合には、お薬の力を借りてつらい症状を和らげます。症状のタイプに合わせて、以下のようなお薬を適切に使い分けます。

  • 便秘型の方へ
    • リナクロチド(リンゼス®)など:腸の中の水分を増やして便を軟らかくし、自然に近いお通じを促します。腹痛を和らげる効果も期待できます。
  • 下痢型の方へ
    • ラモセトロン(イリボー®)など:ストレスなどによって過敏になっている腸の神経に働きかけ、腸の異常な運動を抑えることで、下痢や突然の便意、腹痛を改善します。このお薬は、男性と女性で使い方を調整する必要があります。
  • 腹痛やお腹の張りがつらい方、便秘・下痢を繰り返す方へ
    • トリメブチンマレイン酸塩(セレキノン®)など:腸の動きが活発すぎるときは抑え、逆に動きが鈍いときは活発にするという、腸の運動を「整える」作用があります。
    • ポリカルボフィルカルシウム(コロネル®/ポリフル®)など:便の水分バランスを調整し、便秘・下痢の両方の症状を改善します。

この他にも、腸内環境を整えるお薬(プロバイオティクス)や、お腹の冷えや痛みに効果的な漢方薬など、さまざまな選択肢があります。

おわりに お腹の不調は、見た目には分かりにくいため、周りの人に理解されにくく、一人で抱え込んでしまいがちです。しかし、適切な診断と治療によって、症状を大きく改善させることができます。

「もう治らないかもしれない」と諦めずに、ぜひ一度、近くのクリニックにご相談ください。私たちが、皆さまの健やかな毎日を取り戻すお手伝いをいたします。