感染性腸炎

症状イメージ

急性腸炎に感染性腸炎と薬剤性腸炎があります
頻度★★★★
要点
ウイルス・細菌が原因で吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱、血便などを起こす。1歳以下の乳児の場合は乳児嘔吐下痢症という。
24時間以上の嘔吐・下痢・食事がとれない・血便は重症。点滴で早期改善。
検査には下痢便が必要。検査は感染力と今後の経過を予想するために行う。
薬剤・食事療法(少量頻回の水分+糖質)・感染予防(手洗い・患者は紙タオルで・吐物おむつ処理は手袋+すぐごみ袋密閉+漂白剤による消毒) 点滴の抗生剤が必要となることも。

(1)感染性胃腸炎とは
ウィルス、細菌、寄生虫がが原因になり、吐き気・嘔吐、下痢、腹痛、発熱、血便などの急性の胃腸炎症状を引き起こす病気です。急性腸炎一般には頻度はウイルス性>細菌性>寄生虫ですが一番多いのはウイルス性腸炎です。大半がウイルスとはいわれてはいますが、臨床的には意外と細菌性があるという印象です。 特に1歳以下の乳児では症状の進行が早く、乳児嘔吐下痢症(ロタウイルス感染)と呼ばれます。
(2) 感染性胃腸炎の原因
ウィルスによるものと細菌によるものに分かれます。
ウィルス性:ロタウィルス(院内迅速検査可 下痢便要)・ノロウィルス(院内迅速検査可 下痢便要)・アデノウィルス(院内迅速検査可 のどのからの検査)などで、主に冬場に見られます。
細菌性:サルモネラ(鶏卵または犬や緑亀などのペット)・腸炎ビブリオ(魚介類)・カンピロバクター(鶏肉)・病原性大腸菌(牛肉や未殺菌乳)などがあり、主に夏場に見られます
病原性大腸菌のうちO-157に代表される血便がでるタイプは溶血性尿毒症症候群など命に関わる病気へ移行 きわめて重症化することもあるため注意が必要です。
(3)感染性胃腸炎の症状
吐き気や嘔吐・下痢・発熱・腹痛・全身倦怠感などの症状が見られます。下痢は軟便~水様便が頻回に認められ、時に血便を呈することもあります。この際に特に注意しなければならないのは脱水症状です。下痢や嘔吐による水分の喪失に加え、飲水ができず、また発熱による不感蒸泄の増加もあり、脱水には要注意です。特に老人や子供の場合、自覚症状が出現しにくいこともあり、全身倦怠感が強い時やグッタリした時などは脱水症の可能性が考えられます。
感染症の特徴として見られる発熱は、時に高熱を呈します。
一般的にウィルス性に比べ細菌性のものの方が症状は重篤です。
またウィルス性のものでは咳や鼻水などの上気道炎症状を伴うこともあります。
(4)感染性腸炎の診断は
ペット(犬・緑亀)やなにを食べたかが大切です。ロタウイルス(年齢制限無く保険適応)・ノロウイルス(3歳未満または65歳以上が保険適応)は下痢便をお持ちになるか院内での採便にて検査キットをもっている病院ならすぐにわかります。食品に関わる仕事をされている方は保険適応外ですが検査をオススメします。一般の方は細菌性かウイルス性かだけわかれば治療は変わらないため検査はご本人と相談してすることにしています。
(4)感染性腸炎の経過
感染性腸炎は,細菌性でもウイルス性でも通常数日で改善していきますが、食事がとれなかったり、嘔吐・発熱などの症状強いときには点滴などにより早期改善します。抗菌薬は細菌性が疑われる場合は抗生剤が有効です。ノロウイルス、ロタウイルス、O-157などはヒトからヒトへの二次感染、集団感染が起こりやすいので、トイレは紙タオルで糞便や吐物などの処理には手袋、それに使ったタオルや床などは塩素消毒する必要があります
(5)感染性腸炎の治療
1. 嘔吐

ウィルス性腸炎は、嘔吐は12時間でおさまるため、24時間以上続くときにはかかりつけ医の受診をお勧めします。胃が空になると吐き気が軽減、飲み物や食べ物を欲しがることがあります。最近はナウゼリンOD錠というかむと美味しい薬も処方できるので、これをカリカリと水なしでかませて飲ませて、落ち着いたところで一般的には少量の甘くないアクアライト、OS-1などを勧める事が多いです。実際には低血糖による嘔吐症(アセトン血性嘔吐症)などの合併も多く、個人的意見ですが 少量の糖分の高い乳製品以外の果汁などを数㏄ずつに頻回に与えたり、乳児でなければチョコ、あめ玉、砂糖菓子などを与えさせています。低糖の水分を沢山とり脱水を防ぐというより低血糖による嘔吐の増悪(周期性嘔吐症)を防ぐのが自宅療養には向いているかと思います。
2. 下痢
下痢は、病原体の排出という考え方もありますが、実際には肛門も痛みますしきついし日常生活にも差し障りがでるため、3回目の下痢から下痢止めを使ってはと提案しています。食べさせると下痢するので食べさせないというのは間違いで食べたものがすぐ排泄されるわけではありません。一般的には消化の良いうどんや豆腐、おかゆがいいとされています。実際には食べたいものしか食べられないので、僕の場合は天ぷらと肉類辛い物とコーヒー・アルコール・食事ではありませんが喫煙は控えて他はなんでも少量を頻回にであればいいよということにしています。
●下痢に対する薬
1.乳酸菌製剤(ビオフェルミンR・ラックビーR・ミヤBM)
いわゆる整腸剤で、下痢に対する効果は弱いです。乳酸菌製剤は腸内で糖を分解して乳酸を産生し、病原性大腸菌など有害菌の発育を抑えて便通を整えます。Rは抗生剤併用でも効果のある
2.収斂剤(タンナルビン・乳酸カルシウム)
腸内で徐々に分解されてタンニン酸を遊離し、腸の粘膜を保護し、水分の分泌を抑制し、腸粘膜に穏和な収斂作用を現わします。ガゼインが含まれるので、牛乳アレルギーの人は内服できません。
3.吸着剤(アドソルビン
腸管内の有害物質、微生物、水分、粘液、ガスなどを吸着除去するとともに、ゲル化して腸粘膜を覆い、腸粘膜を保護します。
4.腸管蠕動抑制剤(ロぺミン)
腸管の動きを抑えて、強い下痢止めの効果を現わします。
すべての下痢を押さえ込もうとするとお腹ばかり張って下痢だけが止まらないという状況になるので3回目の下痢以降に使用するようにお話ししています。
5.乳糖分解酵素(ミルラクト・ガランターゼ)
下痢で腸粘膜がダメージを受けると、乳糖(ミルクや牛乳に含まれる、下痢を引き起こしやすい成分)を分解する酵素が不足してきます。それを補うための薬で、特に乳児に良く用いられます。哺乳前に服用させます。
6.漢方薬(五苓散)
嘔吐・下痢・腹痛などに効き目があります。当院では苦くて患者さんが飲めないので処方していません。
●腹痛に対して
腹痛は消化管の収縮に伴うものであり、水分や固形物を経口摂取すると、その刺激で腸蠕動が始まり、腹痛を訴えることがあります。ブスコパンなど痛み止めは我慢できないときのみの使用がよいでしょう。
★ウィルス性胃腸炎
1. ノロウィルス腸炎
ノロウイルスの特徴
汚染された飲み水、食べ物(生カキやホタテ貝)や調理する人の手などを介して感染し、学童、成人、老人施設で集団発生が多く、11月~3月の冬期に流行しやすい。
ノロウイルスの症状と合併症
ノロウィルスの潜伏期間は2~5日、嘔吐、腹痛、下痢、発熱などをきたします。嘔吐や下痢は頻回で強い脱水症状で重症化します。発症後1週間は糞便や吐物中にウィルスを排出し、感染源になります。
ノロウイルスの診断と治療
検査キットさえあれば院内で(下痢便で)診断がつきます。3歳未満と65歳以上しか保険適応がありません。しかし調理に携わる人 学校関係者では勤務先から検査を求められることもありこのときには自費にて検査することができます。
ノロウイルスは感染を防ぐことが最も大切
手洗い(トイレの後や調理の前 布ではなく紙タオルで拭くこと)やうがいをする。吐物や便の処理はビニール手袋を使い、汚物はビニール袋に入れて密閉して捨てます。汚染されたタオル、服、床は次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤の薄めた物でも代用できます)で消毒すします。ノロウィルス感染症では、症状がなくなった後も2週間も糞便中にウィルスを放出し続けるので注意が必要です。
2.ロタウィルス腸炎(乳児嘔吐下痢症)
ロタウィルスの特徴
1月初旬から乳幼児で流行します。生後6カ月から2歳がよく発症し重症化します。いくつもの型がありますが、それぞれの型に一度かかると終生免疫がつきます。
ロタウイルスの症状と合併症
乳幼児で白色下痢便(米のとぎ汁)と、嘔吐、発熱と咳などの風邪様症状をみとめます。
激しい下痢・嘔吐に伴う脱水症に、腸重積症に加え、痙攣、脳炎、髄膜炎、脳症、ライ症候群の様な中枢神経系合併症や、肝機能障害をおこします。
ロタウイルスの診断と治療
検査キットさえあれば院内で(下痢便で)診断がつきます。
最初は胃液を吐くまで嘔吐が4時間ほど続きます
腸管の動きも落ち食欲はなく、それ以降も嘔吐が続いたり、グッタリし目が落ちくぼんだり、手足が冷たい時には点滴が必要です。5~6時間経って吐き気がややおさまると水分を要求するようになります。果汁やイオン飲料を1回に3~5ccづつ、2~3分間隔から始め、嘔吐がなければ量を増やしていきます。ロタウイルス感染の時にはミルクや牛乳などの乳製品以外(一時的乳糖不耐症となることがあるため)、母乳や果汁、イオン水が適しています。
嘔吐がおさまって下痢だけの時期
米のとぎ汁様の白い便になり、大量の水様便が出ますが、心配はありません。薄い塩味の野菜スープ、お腹にかかる負担が最も少ないお粥、うどん、パン、豆腐などです。
下痢が2週間以上続くとき
下痢が長引くと分解酵素活性が低下して長期化します。乳糖不耐症は腸炎後症候群といいます。かかりつけ医にガランターゼなどの乳糖分解酵素を処方してもらうとよいでしょう。
3.アデノウイルス腸炎
アデノウィルス腸炎は主に3歳未満の乳幼児で、ロタウィルスに次いで多く認められます。通年性で夏季にやや多く、比較的軽症で発熱が少ない? アデノウイルスは院内で咽頭ぬぐいすることでキットさえあれば診断がつきます。
★細菌性胃腸炎
1. サルモネラ腸炎
腸炎ビブリオと並んで代表的な食中毒の原因菌です。
イヌ・ネコ・ニワトリ・ネズミ・カメなどに広く分布するサルモネラ菌が、卵、食肉またはその加工品を汚染して食中毒が発生します。
夏に発生が多く、特に鶏卵汚染が注目されています。業務用の鶏卵加工品が汚染されていると、調理時の温度管理が不完全な飲食店などを中心に、広域に大規模な食中毒が発生します。潜伏期は12~48時間、主症状は発熱、腹痛、下痢、嘔吐で血便を認めることもあります。38度以上の発熱が1週間続くことも。下痢の回数は1日数回から10回以上、多くは水様下痢便ですが膿粘血便になることもあります。診断は糞便、血液より菌の検出を行います。抗生剤が有効です。
2. 腸炎ビブリオによる腸炎
腸炎ビブリオは水揚げされた魚介類に存在します。夏季には魚肉中で急速に増殖するため、刺身、寿司などで魚介類を生食した場合、食中毒が発生します。
主病変は小腸で、魚介類を食べた後わずか数時間で発病します。
症状は激烈な腹痛と下痢で、悪心、嘔吐を伴い、血便を認めることもあります。初期の症状は激烈ですが、経過は短く、通常2~3日で回復します。
3. キャンピロバクター腸炎
キャンピロバクターはウシ・ブタ・ニワトリなどの腸管菌で汚染された肉、またはその肉を調理したまな板から感染します。鶏肉、鶏卵、牛レバー マヨネーズ、ペットの排泄物からも感染します。小児下痢症の30%がこの可能性が。潜伏期は1~7日と長いのが特徴です。腹痛、悪心、嘔吐を伴い、38度以上の発熱が3日くらい持続します。下痢は1日10回くらいで約半数に血便を認め、症状改善までに3~5日かかります。新生児では敗血症や髄膜炎などをおこすこともあります。感染後に急性に左右対称性の四肢運動麻痺をきたすギラン・バレー症候群の原因になります。
4. 病原性大腸菌による腸炎(O-157もふくむ)
このなかで腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)が最も重症で(指定伝染病) O-157が大部分です。牛肉や牛肉加工品からの経口感染です。初期には泥状、水様の下痢便で、1~2日後に激しい鮮血便を呈する出血性大腸炎を起こし入院となることも。下痢が始まって8日以降に溶血性尿毒症症候群や脳症、血小板減少性紫斑病を続発することがあります。
5. エルシニア腸炎
エルシニア菌をもつ動物(ブタ・ウシ・ヒツジ・ウマ・イヌ・ネコなど)の糞便に汚染された食物や、水の摂取で感染します。小児が感染を受けやすく、保育所や小学校での集団感染となります。下痢、腹痛、発熱、嘔吐が1~2週間続くこともあります。血便や右下腹部の腹痛が起こることもあります。
6.ブドウ球菌食中毒
耐熱性エンテロトキシン(腸毒素)を産生する黄色ブドウ球菌の汚染食品からの毒素型食中毒です。毒素は長時間の冷凍、煮沸でも効果がなく吐き気を起こします。感染源は調理者の手指の化膿した傷が最も多いです。2~3時間の潜伏期の後、悪心、嘔吐、腹痛をきたします。下痢、発熱は少なく、24時間で軽快することが多いです。
7.ボツリヌス菌食中毒
ボツリヌス菌食中毒は致死率の高い食中毒です。加熱不十分な缶詰、瓶詰、真空パック食品などの、酸素が少ない条件下で食品中で増殖したボツリヌス菌の産生する毒素が、消化管から吸収され四肢麻痺・呼吸筋麻痺などをきたし、重症例では死亡します。缶詰・ソーセージ・蜂蜜が有名です。潜伏期は12~36時間で、食品を十分に加熱さえすれば食中毒を起こすことはありません。