細菌性肺炎

症状イメージ

細菌性肺炎のポイント
●細菌性肺炎はどんな病気か?
肺炎は、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞(はいほう)に起こる感染に伴う炎症です。 肺胞は気道とつながっているので、同時に気管支炎も起こします。肺炎では肺胞にまで微生物が侵入し、 それに対して体の防御機構(メカニズム)がはたらき、炎症性の細胞や滲出液(しんしゅつえき)が肺胞内に満たされた 状態、レントゲンでの浸潤影となります。原因は細菌です。

●細菌性肺炎の原因はなにか? 肺炎は1つの病気というより、それぞれ異なる微生物によって引き起こされる多くの病気の集まりといえます。この微生物は、 細菌、ウイルス、真菌(カビ)などです。肺炎は普通、微生物が肺の内部まで吸いこまれて発症しますが、微生物が血 流によって肺へ運ばれたり、付近の器官に感染した微生物が、直接肺へ移動して発症することもあります。特に腹部の 手術や胸部のけが(外傷)の後で、肺炎を発症することがあります。これは、呼吸が浅くなってせきが出にくくなり、粘液 がたまるためです。また、肺炎は口から吸いこんだ異物を除去できない場合や、腫瘍(しゅよう)などによる閉塞が原因 で細菌が感染した場合にも発症します。前者を吸引性肺炎、後者を閉塞性肺炎といいます。

●細菌性肺炎の症状の現れ方は?
肺炎で最もよくみられる症状は、たんを伴うせきです。そのほか、胸の痛み、悪寒、発熱、息切れなどがみられます。 肺炎の症状は、肺炎を起こしている範囲や原因となっている微生物の種類によって異なります。 医師は聴診器で胸部の音を聞き、肺炎かどうか確認します。肺炎の場合、気道が狭くなったり、肺の空気で満ちた正常な 部分が炎症を起こした細胞や滲出液で満たされるために異常音が起こります。 胸部X線検査によって、ほとんどの肺炎の診断が確定します。頻度の高い細菌性肺炎では、細菌が感染した組織はX線 が通り抜けないため、白い斑点陰影となってX線写真上に現れます。ウイルス性肺炎は、広範囲に広がった白く薄いしま 模様または斑点が特徴です。肺炎は肺膿瘍(肺膿瘍を参照)を引き起こすことがあり、X線写真上では液体(膿)の貯留 した部分がみられます。肺の先端部に異常がある場合は、結核(結核を参照)が示唆されます。このように、X線検査は、 必ずとはいえませんが、肺炎の原因を突き止める一助となります。 たんや血液サンプルを培養して、肺炎を起こしている微生物の特定を試みます。患者が重症だったり治療の効果が上がらな いなど、微生物の特定が必要な場合は、気管支鏡を気道内へ挿入して新たなサンプルを採取します 細菌性肺炎の原因菌は肺炎球菌が最も多く、次いでインフルエンザ菌です。そのほか、黄色ブドウ球菌やクレブシエラ菌 が原因になります。肺炎球菌(図10)は健康な人にも肺炎を起こしますが、クレブシエラ(図11)による肺炎はアルコール 依存症や糖尿病の患者さん、高齢者に起こりやすいといわれています。黄色ブドウ球菌は、冬のインフルエンザウイルス 感染のあとにみられることがあります。

●細菌性肺炎の治療は?
まず、外来で治療するか入院するかを決めます。軽症で通院が可能であれば経口薬の投与が、中等症以上で入院が適 切だと思われた場合は注射による治療が選択されます。当院では患者さんの希望により注射による治療を行う場合もあります。 基礎疾患があったり高齢者の場合は、軽症でも入院して 治療し、軽快する傾向を確認したうえで外来治療にするほうが安全だと考えられています。したがって、入院か外来治療 かは、重症度ばかりでなく、家庭での看護の状況や基礎疾患に伴う重症化の可能性も考慮して、医師が判断すること になります。  細菌性肺炎では、原因になっている細菌に合わせた適切な抗菌薬を選択することが治療の基本です。肺炎球菌や黄色ブドウ球菌といったグラム陽性菌と、インフルエンザ菌やクレブシエラなどのグラム陰性菌では、選択する抗菌薬の種類が違ってきます。また、その施設や地域によって、同じ種類の細菌でも薬剤に対する感受性が異なるため、その点も考慮しなければなりません。とくに、抗菌薬に耐性(たいせい)がある細菌の区別が重要で、感染症治療の最も大きなポイントになります。  たとえば、これまで細菌性肺炎で最も頻度の高い肺炎球菌にはペニシリン系の抗菌薬がよく効いていたのですが、最近、ペニシリン耐性肺炎球菌という耐性菌の頻度が増え、抗菌薬治療が難しくなってきています。そのため、重症や基礎疾患のある人、高齢者では、経口薬ではニューキノロン系が、注射薬ではカルバペネム系が選ばれます。このように、重症度、基礎疾患、耐性菌の頻度などを総合的に判断して、抗菌薬の投与法や種類が選択されます。  誤嚥性(ごえんせい)肺炎を起こした場合は、口腔内の清浄が保たれていないことが大きな原因になります。歯みがきを励行し、かつ歯肉の化膿性病巣などを歯科で治療してもらうことも必要です。  進行の急激な重症の肺炎の場合、レジオネラ肺炎を疑うことが大変重要です。レジオネラ肺炎の場合、通常よく選択されるセフェム系などの抗菌薬では無効で、マクロライド系、ニューキノロン系、リファンピシンといった抗菌薬を優先的に選択し、すばやく投与する必要があります。レジオネラ肺炎の場合は、疑うか、疑わないかで生死が分かれるといっても過言ではありません。とくに、肺炎になる前の1~2週間の間に温泉旅行に行ったことのある人、あるいは透析中などの、免疫に影響する治療を受けている人では注意が必要です。

●細菌性肺炎の注意点は?
単なるかぜだと思って受診されて肺炎だった例は数多くあります。 咳と痰だけでは肺炎と気管支炎のいずれであるかは区別できませんが、発熱が高く、胸痛、呼吸困難などがあれば肺炎の 疑いがあるので、すぐに医療機関を受診してください。そこで診察し、X線検査を行い、重症度に応じて入院の是非や 専門病院への転送などを判断します。  ただし、意識障害や呼吸困難、チアノーゼ、血圧の低下などが認められた場合は、重症肺炎の兆候です。重症肺炎は進行が速く、治療が間に合わないこともあるため、緊急に医療機関を受診してください。