髄膜炎

頻度★
症状イメージ

要点
髄膜炎とは、脳と脊髄を覆う髄膜が炎症がひろがった病気です。細菌性髄膜炎と、ウイルス性(無菌性)髄膜炎」があります。

(1)髄膜炎とは
髄膜とは、脳・脊髄の表面をおおっている髄膜に、細菌やウイルスが入り込み、炎症を起こす病気です。予後が悪く、早期の診断、治療が大切です。髄膜炎は持続する頭痛、発熱、 首の硬直などの髄膜刺激症状がみられます。脳実質の炎症を主体であれば脳炎といい、両者を合わせた髄膜脳炎として発症することがあります。

(2)原因は何か
ウイルス、細菌、結核菌、寄生虫、真菌(カビ)、がんが原因となります。原因により治療が違い病状が急速に重症化するため迅速な診断治療が必要な病気です。

(3)症状は
小さい子供ほど、発見がむずかしい
月齢が低いほど、症状が見つけにくいもの。おむつ替えで足を持ち上げたり、頭を持ち上げたりするとひどくいやがるときなどには、病院へ。
髄膜炎の特徴的な症状に頚部硬直(首が髄膜炎のため動かせなくなり動かすと激痛が走る)がありますが首がすわっていない時期にはこの症状がみられないため診断が難しいのです。
きげんが悪くて食欲もない、トロトロ眠りがち、首の後ろがつっぱるなどの症状がある時は早めの受診を持続する激しい頭痛が主な症状です。発熱(時に高熱)、全身のだるさ、さむけ(悪寒)、吐き気、嘔吐がみられます。
首の硬直(髄膜刺激症状)もほぼみられますが必ず起こるとはかぎりません。ただし首をぶんぶん左右に振っても痛みがなければ髄膜炎ではないといえます。悪化すると意識障害や痙攣(けいれん)が何度もみられます。急に症状が進むものは細菌・ウイルスが多く、結核・真菌ではややゆっくりと、遅発性ウイルス感染では慢性に数年かけて起こるものもあります。
深い意識障害、繰り返す痙攣は重症のサインで集中治療室での治療が必要です。
頸部硬直             仰向けで首を前屈と抵抗がある
Kernig(ケルニッヒ)徴候      仰向けで足を上げると膝が伸びない(135度以下)
Brudzinski(ブルジンスキー)徴候  仰向けで起き上がると自然と膝と腰がまがる
neck flexion test         下あごが曲げても胸につかない
jolt accentuation         いやいやと首を振ると頭がより痛くなる(この症状がないと髄膜炎ではない)

(4)検査と診断
髄液検査 細胞数増加が診断上重要です。
外観
水様透明     →細胞数5以下・糖正常(50~80)→疑われるときには24~48時間後再検 陰性なら正常
水様透明・日光微塵→細胞数500までの上昇・糖正常(50~80)→ウイルス性髄膜炎
水様透明・日光微塵→細胞数500までの上昇・糖の低下(40以下)→結核性・真菌性髄膜炎
混濁・膿性    →細胞数500以上の上昇・糖の低下(0~20)→細菌性髄膜炎

赤沈の亢進、C反応性蛋白上昇などの一般炎症所見、髄液所見で細胞数増加がみられ、
CT、MRI
ヘルペス脳炎  側頭葉・辺縁系に60~70%の頻度
日本脳炎   視床・基底核、黒質に発症
脳波
ヘルペス脳炎 周期性一側てんかん放電

細菌培養・染色
グラム染色、一般細菌、血液培養、抗酸菌染色(抗酸菌・結核菌)、墨汁染色(真菌)
各種ウイルスに対する髄液からのPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応→コラム)を含む病原検索
血清、髄液の酵素抗体、 補体結合抗体、血球凝集抑制抗体などの抗体価検査。

PCR法によるウイルスゲノム(遺伝子)の検出、発症10日以内の急性期で陽性、
細菌  髄腔内の局所抗体産生をみる、血清・髄液抗体価比(正常100以上)

(5)治療の方法
各種髄膜炎・脳炎 原因に対し特異的な治療。
細菌性髄膜炎→起炎菌同定結果前に抗菌薬+ステロイド投与開始。
結核性・真菌性髄膜炎→抗結核薬、抗真菌薬
ヘルペス脳炎→アシクロビルの点滴静脈

これからは詳しい説明です

★細菌性髄膜炎
①細菌性髄膜炎(急性化膿性髄膜炎)とは
細菌性髄膜炎とは、クモ膜下の髄液に細菌が炎症を引き起こす病気。
発熱、激しい頭痛、 悪寒、首の硬直が現れ、発症24時間で重症化するので、早期診断、加療が大切。
混濁・膿性    →細胞数(好中球)500以上の上昇・糖の低下(0~20)→細菌性髄膜炎

②細菌性髄膜炎の原因は
新生児(生後4ヶ月未満)→①B群 連鎖球菌 ②大腸菌 ③インフルエンザ菌
乳幼児(4ヶ月~6歳)→①インフルエンザ菌 ②肺炎球菌 ③髄膜炎菌
小児から成人   →①肺炎球菌 ②インフルエンザ菌 ③髄膜炎菌
壮年(50歳以上) →①肺炎球菌 ②黄色ブドウ球菌 ③大腸菌
インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌が約75%を占め感染症法5類(7日以内医師による届け出)

③細菌性髄膜炎の感染経路は
(1)菌血症(敗血症)による血行性に髄膜へ
(2)中耳炎、副鼻腔炎から直接髄液に侵入
(3)心、肺感染から血行性に髄膜へ
(4)脳外科手術後感染

④細菌性髄膜炎の治療法
1:気道、血管を確保し、敗血症治療と呼吸循環管理
2:血液培養を2セット採取
3:起因菌同定前にすぐにステロイド、抗菌薬投与
4: 免疫不全症の既往、意識障害、うっ血乳頭や神経巣症状を認める場合は、頭部CT検査(特に頭蓋内圧亢進を疑う場合は、腰椎穿刺前に評価)
5:腰椎穿刺

⑤細菌性髄膜炎の抗生剤選択

菌検出前
新生児(生後4ヶ月未満)→①B群 連鎖球菌 ②大腸菌 ③インフルエンザ菌 →第三世代セフェム+アンピシリン
乳幼児(4ヶ月~6歳)→①インフルエンザ菌 ②肺炎球菌 ③髄膜炎菌   →第三世代セフェム+カルバペナム系
小児から成人   →①肺炎球菌 ②インフルエンザ菌 ③髄膜炎菌   →カルバペネム or 第三世代セフェム+バンコマイシン
壮年(50歳以上) →①肺炎球菌 ②黄色ブドウ球菌 ③大腸菌     →第三世代セフェム+バンコマイシン+アンピシリン
インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌が約75%

菌検出後
グラム陽性球菌
肺炎球菌    →カルバペネム or 第三世代セフェム+バンコマイシン
B群レンサ球菌 →第三世代セフェム or アンピシリン
ブドウ球菌   →第三・四世代セフェム or バンコマイシン カルバペネム
グラム陽性桿菌
リステリア   →アンピシリン
グラム陰性球菌
髄膜炎菌   →第三世代セフェム
グラム陰性桿菌
インフルエンザ菌→第三世代セフェム メロペネム
緑膿菌・大腸菌 →第三・四世代セフェム カルバペネム

⑥細菌性髄膜炎の予後
死亡率は5~40%。10%で神経後遺症を生じる予後不良。
細菌性髄膜炎の最大の予後不良因子は、治療の遅れ。
原因菌では、黄色ブドウ球菌や緑膿菌といったグラム陰性桿菌などが予後不良因子。
原因微生物により治療期間決定。炎症所見や髄液所見の正常化は不要。
肺炎球菌の場合は10~14日間
髄膜炎菌の場合は7日間
インフルエンザ菌の場合は7日間
リステリアやグラム陰性菌の場合は14~21日間

 

★無菌性髄膜炎
①無菌性髄膜炎とは
髄液培養や血液培養で菌が認められない髄膜炎 多くはウイルス
結核 真菌 悪性腫瘍からのものとの鑑別が大切 膠原病や自己免疫疾患、薬剤性もある
小児(幼児期後半~学童期)に好発
髄液検査
水様透明・日光微塵→細胞数500までの上昇・糖正常(50~80)→ウイルス性髄膜炎(ウイルス抗体価↑ PCRによる検出)
水様透明・日光微塵→細胞数500までの上昇・糖の低下(40以下)→結核性(ADA:アデノシンアミラーゼ↑)・真菌性髄膜炎(墨汁染色+)

②無菌性髄膜炎の原因は
ウイルス
  コクサッキー エコー エンテロウイルス → 胃腸症状・発疹 無菌性髄膜炎の80%
ムンプスウイルス → 耳下腺腫脹 無菌性髄膜炎の10%
単純ヘルペス → 水疱  →髄液HSV-DNAのPCRで診断
水痘・帯状疱疹 → 水疱 →水痘・帯状疱疹ウイルスPCRで診断
結核性髄膜炎
抗酸菌塗抹・培養・PCR検査や髄液ADA検査

真菌性髄膜炎
クリプトコッカス髄膜炎 → 髄液の墨汁染色・真菌培養および髄液のクリプトコッカス抗原検査

神経梅毒による髄膜炎 → 性格変化などの症状→血清・髄液RPR検査や髄液FTA-ABS検査を行う。
癌性髄膜炎     → 髄液の細胞診検査を行う。
自己免疫疾患に伴う無菌性髄膜炎 → SLEなど膠原病の検索

③無菌性髄膜炎の治療は

発熱、頭痛などに対する対症療法が主体です。抗ウイルス薬の投与は、単純ヘルペス1、2型、水痘・帯状疱疹ウイルスによる髄膜炎に対し、アシクロビルの点滴投与を行います。一般的に良好な経過を示します。

無菌性髄膜炎の予後は

無菌性髄膜炎(ウイルス性髄膜炎)の予後は一般的に良好です。
成人の場合は幼小児より症状消失までの期間が長いことが多く、完全に症状が消失するまで2~3週間を要することもある。

治療
細菌性髄膜炎が否定できなければ、髄液または血液培養で陰性の結果が得られるまで(細菌性髄膜炎でないとわかるまで)抗菌薬(場合によってはステロイドも併用)を投与する。
HSVなどのウイルスや、クリプトコッカス、梅毒、結核などではそれぞれの治療薬があり、見逃さないように注意が必要である。また自己免疫疾患に合併する髄膜炎や癌性髄膜炎も原疾患により治療法が異なる。 エビデンス
エンテロウイルスなどによる無菌性髄膜炎であれば特異的な治療薬はなく、頭痛・発熱への対症療法が主体となる。 エビデンス