髄膜炎の診断とポイント
高熱、嘔吐、頭痛、ひきつけ
●脳や脊髄をおおう髄膜に炎症が起きます
髄膜とは脳や脊髄をおおっている膜のこと。ここに細菌やウイルスが感染して炎症を起こすのが髄膜炎です。かぜ、おたふくかぜなど、体の抵抗力が落ちたときに起こります。
●高熱、嘔吐、頭痛、20分くらいのひきつけ
頭が痛くなったり、熱を出したり、吐いたりする症状とともに、20分くらい続くひきつけなどを起こします。赤ちゃんの場合は、頭の骨がまだくっついていない部分の「大泉門」
(あたまのてっぺん中央でぺこぺこしているところ)がパンパンにはれ、見つかることも。
●小さい子供ほど、発見がむずかしい
月齢が低いほど、症状が見つけにくいもの。おむつ替えで足を持ち上げたり、頭を持ち上げたりするとひどくいやがるときなどには、病院へ。
髄膜炎の特徴的な症状に頚部硬直(首が髄膜炎のため動かせなくなり動かすと激痛が走る)がありますが首がすわっていない時期にはこの症状がみられないため診断が難しいのです。
きげんが悪くて食欲もない、トロトロ眠りがち、首の後ろがつっぱるなどの症状がある時は早めの受診を
●ウイルス性髄膜炎と細菌性髄膜炎
ウイルスが原因になっているものが「ウイルス性髄膜炎」、細菌が原因になっているものが「細菌性髄膜炎」です。
ウイルス性のものは症状がやや軽めのことが多いですが、細菌性のものは知的な発達が遅れるなど、障害が残ることもあります。
細菌性髄膜炎は、高熱が出てから3日以内に治療を始めないと命にかかわることも早めの受診を!
細菌性髄膜炎
●細菌性髄膜炎とは?
発熱、激しい頭痛、悪寒(おかん)などが現れ、一般的に発症後24時間で病変はピークに達するので、 早期診断、早期加療がポイントになります。急性化膿性髄膜炎(かのうせいずいまくえん)とも呼ばれます。
●細菌性髄膜炎の原因は?
乳幼児によく起こりますが、年齢によって起因菌が異なります。3カ月未満では大腸菌、B群連鎖球菌(れんさきゅうきん)、 3カ月以降においてはインフルエンザ菌が多く、成人では肺炎球菌、髄膜炎菌の頻度が高いとされています。
●細菌性髄膜炎の症状は?
発病は急性発症で、激しい頭痛、悪寒、発熱(38~40℃)とともに項部(こうぶ)(うなじ)硬直などの髄膜刺激症状 がみられます。発熱では高熱が持続します。また、せん妄(錯覚や幻覚を伴う軽度の意識障害)などの意識障害、 脳神経症状も現れます。
●細菌性髄膜炎の検査と診断
血液検査で赤沈の亢進、白血球増加を示します。また、腰椎穿刺による髄液検査(図16)を行います。髄液所見は 圧の上昇、混濁、時に膿性、蛋白は増加、糖の著明な低下(髄液糖/血糖値比が0・3以下)がみられ、急性期の 髄液細胞は多核白血球(桿状(かんじょう)、好中球(こうちゅうきゅう))がみられます。経過とともにリンパ球、 単球に置き換わります。CT、MRIでは、脳浮腫や血管炎による脳硬塞(のうこうそく)、膿瘍(のうよう)、水頭症などを 起こすことがあります。 髄液から菌が証明されれば診断は確定的であり、まず髄液沈渣(ちんさ)の塗抹標本(グラム染色)において起炎菌 の迅速な検出が重要とされています。培養、同定(突き止めること)および抗生剤感受性のテストが必要になります。また、 迅速診断として、髄液、血清を用いた主要菌の菌体成分に対するラテックス凝集法などが一般化しています。
●細菌性髄膜炎の治療法は?
急性期には発熱、激しい頭痛に悩まされることが多く、適切な抗菌薬の投与が望まれます。体温、脈拍、血圧、呼吸な どのバイタルサインの監視が行われ、鎮痛・解熱薬も投与されます。 起因菌が同定されるまでは、第3世代セフェム剤(セフトリアキソン、あるいはセフォタキシム)にアンピシリンを併用します。 投与量は1日それぞれ4~6g(成人)で、点滴投与となります。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ペニシリン耐性(たいせい) 肺炎球菌などが増えているので、前者にはバンコマイシン、後者に対してはカルベニンなどが用いられます。
●細菌性髄膜炎で気を付けること
急性発症で、発熱、激しい頭痛、悪寒などがみられる場合には、この病気が疑われます。緊急に神経内科、内科、 小児科を受診し、入院も考慮しなければいけません。 このほか、脳圧降下薬(グリセロール、マンニトール)、抗けいれん薬、鎮痛・解熱薬の投与が行われます。
ウイルス性髄膜炎(無菌性髄膜炎)
●ウイルス性髄膜炎とは?
春から夏にかけてはエンテロウイルス、ムンプスなどによるウイルス性髄膜炎が多くみられます。通常特別な治療を必要としま せん。無菌性髄膜炎は本症と同義的に用いられていますが、無菌性(むきんせい)髄膜炎にはウイルス以外に、造影剤の 髄腔内注射などによる髄膜炎が含まれます。
●ウイルス性髄膜炎の原因は
小児によく起こります。エンテロウイルス(エコー、コクサッキー)が主な病因ウイルスです。
●ウイルス性髄膜炎の症状の現れ方
発熱、頭痛をもって急性に発病し、項部(こうぶ)(うなじ)硬直、髄液でのリンパ球を主体とした細胞増加を認め、一般的に良好な経過をたどります。項部硬直などの髄膜刺激症状が認められない場合もあります。 発疹などの随伴症状は、エコーウイルス、手足口病(エンテロ71)、風疹(ふうしん)、麻疹(ましん)、単純ヘルペス、水痘(すいとう)・帯状疱疹などでみられます。普通、皮膚症状の発症から1週間以内に、頭痛、吐き気などの髄膜刺激症状が現れます。
●ウイルス性髄膜炎の検査と診断
白血球数は一般的に減少傾向で、赤沈は亢進します。髄液所見は、圧の軽度上昇、約300/mm3程度の細胞増加、蛋白は軽度の増加、糖は正常となるのが特徴的です。急性期の髄液からのPCR法による各種ウイルスゲノム(遺伝子)の検出が一般化しています。併せて、抗体価検査を行う必要があります。 髄液所見、流行性の有無などを参考にし、髄液からのウイルス分離、PCR陽性、あるいは抗体価の上昇があれば病因診断を確定できます。急性期の検体からは陽性率が高いとされています。
●ウイルス性髄膜炎の治療
発熱、頭痛などに対する対症療法が主体です。抗ウイルス薬の投与は、単純ヘルペス1、2型、水痘・帯状疱疹ウイルスによる髄膜炎に対し、アシクロビルの点滴投与を行います。一般的に良好な経過を示します。
●ウイルス性髄膜炎の注意点
発熱、頭痛をもって急性に発病した場合は、本症の疑いがあります。神経内科、内科、小児科の医師に相談します。