奇形腫(胚細胞性腫瘍)

症状イメージ

奇形腫(胚細胞性腫瘍)のポイント
良性・悪性両方のものがあります
●奇形腫(胚細胞性腫瘍)はどんな病気か
奇形腫は最近では胚細胞性腫瘍と呼ばれ、生殖器ができる過程でその基になる胚細胞に発生する腫瘍の総称で、 良性、悪性のものを含みます。女児の卵巣、男児の精巣にできるほか、体の中心線にそって発生し、お尻の骨の 仙尾部(せんびぶ)、後腹膜(こうふくまく)、胸の奥の縦隔(じゅうかく)などにも発生します。  部位によって年齢の分布や悪性の占める割合および組織の型が大きく異なります。
①多くは成熟奇形腫、未熟奇形腫です。成熟奇形腫は良性であり、未熟奇形腫も小児では予後良好です。 悪性奇形腫は後腹膜原発の約10%,卵巣原発の約20%,仙尾部原発の約30%を占めほとんどが卵黄嚢癌です。
②後腹膜奇形腫では、上腹部,正中より左右にやや偏った腫瘤を触れ、腹部膨満以外の症状は少なく、腫瘤が巨 大になるとおされて嘔吐,食欲不振などが見られるようになります。良性奇形腫は乳児症例が多く,時に腫瘤に気管などが押されて 呼吸苦を訴えるようになります。
③仙尾部奇形腫のうち、前仙骨型はおされて便秘をきたし、直腸指診にて仙骨前面に腫瘤を触知し、腫瘍が骨盤腔内 に進展とともに下腹部にも腫瘤を触れるようになります。生後6か月以降に発見された症例は悪性の頻度が非常に高いようです。
④卵巣腫瘍では80%は良性で、嚢胞状の成熟奇形腫が最も多く、次いで単純性卵胞嚢で良性です。悪性腫瘍では、 胚細胞性腫瘍(卵黄嚢癌)と非胚細胞性腫瘍があります。症状は可動性の下腹部腫瘤が多く、よく腹痛を伴います。 卵巣腫瘍の茎捻転を起こして急激な腹痛を訴えたり、腫瘤の尿路閉塞により排尿障害をきたすことがあります。

●奇形腫(胚細胞性腫瘍)の症状の現れ方
卵巣の奇形腫は下腹部のしこりとして気づかれますが、腹痛や腹水、膀胱、直腸がしこりに圧迫されて頻尿(ひんにょう)、 便秘なども起こります。おむつ交換時に片側で痛みのない精巣のはれとして発見されます。仙尾部では、お尻の部分の こぶ、腫瘍の圧迫による便秘、尿閉(尿が出にくい)などがみられます。後腹膜では、おなかのはれやしこり、縦隔では呼 吸器症状や顔のむくみなどがみられます。

●奇形腫(胚細胞性腫瘍)の検査と診断
①血液検査
悪性奇形腫はα(アルファ)―フェトプロテインという特殊な蛋白質が、胎児肝および卵黄嚢組織で産生される増えますが、 肝芽腫,卵黄嚢癌ではさらに上昇します。血清AFP値は,新生児や10か月未満の乳児では正常でも高値をとるので、 正常範囲も高いことを念頭において比較して判断しなければいけません。
血清human chorionic gonadotropin(HCG)は奇形腫群腫瘍のうち絨毛癌の成分が混在する場合に上昇します。
②超音波検査 外来でまず行う検査で、腫瘍の存在,部位,性状,周囲 臓器との関係を調べます。性状で嚢胞性は多くは良性であり充実性の多くは悪性であることがおおいようです。
②単純X線撮影
腹部単純X線撮影では、奇形腫群腫瘍、神経芽 腫では腫瘍内石灰化がみられる場合が神経芽腫以外のWilms腫瘍などでは肺転移をきたすので胸部X線撮影を 行います。
③CT、,MRI
腫瘍の局在、周囲への進展状態,リンパ節転移の 有無をみます。CTにて奇形腫群腫瘍および神経芽腫では一部石灰化が認められることがあります。MRIでは腫瘍と 大血管との関係をみて腫瘍の切除可能性)の判定につかいます。また四肢長管骨のMRIは骨・骨髄転移の判定に有用 です。
④シンチグラム:骨シンチグラフィーでは神経芽腫の骨転移原発巣にRIが集 積するため,骨転移の診断に有用です。また,123I-MIBGシンチグラフィーは神経芽腫特異的に取り込まれすため診断に有用です。 ⑤骨髄穿刺:神経芽腫の骨髄転移の診断に必須である.腫瘍検出法は通常のHE染色,ギムザ染色以外に,免疫組織化学や遺伝学的手法が最近用いられるようになってきている.
●奇形腫(胚細胞性腫瘍)の確定診断、  臨床所見,画像検査,腫瘍マーカーなどでほぼ診断は可能ですが、,確定診断は病理組織診断によってなされます。  最近は腫瘍の組織学的分類、予後因子により治療法が選択されます。 悪性奇形腫は、精巣などの部位では、比較的早期に見つかり、転移がなく完全摘出が可能な場合には手術をします。その後は無治療で慎重に経過を観察します。ほかの部位は完全摘出が難しいことが多く、抗がん薬の治療で腫瘍の縮小を待ってから、全摘出をめざした機能温存の手術を行い、手術後も抗がん薬を使います。早期であれば治癒が期待できます。  良性の奇形腫では、完全に取り除くことで再発は少なくなります。

●奇形腫(胚細胞性腫瘍)を早期発見するために おむつ替えや入浴の時、おなかのしこり、精巣のはれ、お尻のこぶがないかどうかを観察してください。これらの症状や便秘、尿閉がみられたら、すぐに小児科を受診します。悪性奇形腫は肺やリンパ節に転移しやすく、早期発見・早期治療が大切です。 なかなか診断のつかないとき試みること  積極的に開腹(腹腔鏡下)腫瘍生検を行う. のが特徴で、これが診断の手がかりになります。