脳出血
要点
脳出血は頭蓋骨の中の出血すべてを指すこともありますが、普通は脳内の血管が破れ、脳の中(大脳、小脳、脳幹の)脳実質内の出血のことをいいます。

(1)脳出血とは
★脳卒中と脳梗塞の違い
脳卒中は、脳血管障害のことで脳出血・くも膜下出血・脳梗塞・脳塞栓などすべてを含みます。脳出血は脳卒中のひとつです。脳卒中は、今まで全く症状のなかった人に、突然に起こります。手足の麻痺やしびれ、手足がうごかない、ろれつが回らない、きゅうにふらつくなどが突然に起こった時には、たとえそれが軽くても、脳卒中を疑うことが大切です。出血性脳卒中が脳卒中全体の20%を占め、その3/4が脳内出血です。

(2)脳出血の原因は
脳出血の最大の危険因子は「高血圧」です。高血圧は症状がないことが多く、脳の血管の動脈硬化すすみ、脳の血管が破れ脳出血となります。最近は血圧の治療をきちんとされる方が増え、脳出血が減り、脳梗塞が増えてきています。
脳出血は、高血圧性脳内出血のほか、非高血圧性として、脳動静脈奇形、動脈瘤、脳動静脈奇形からの脳出血、転移性脳腫瘍(腫瘍内出血)や脳の外傷、白血病からの血液凝固異常出血があります。

(3)脳出血の症状は
高血圧性脳出血はを被殻出血(40%)と 視床出血(35%)、皮質下出血(10%)、 橋(中脳と 延髄えんずいとの間にある)出血(5%)、小脳出血(5%)、その他(5%)と続きます。
症状は突然おこる頭痛、嘔吐、意識障害、 片麻痺、手足の麻痺やしびれ、手足がうごかない、ろれつが回らない、言葉が出ない、急にふらつく等です。
①被殻出血(40%) 片麻痺、感覚障害、 同名半盲(両眼とも視野の片側半分が見えなくなる状態)が主な症状で、進行すると意識障害がみられます。 優位半球(通常左半球)の出血では 失語症もみられます。

②視床出血(35%) 片麻痺、感覚障害は被殻出血と同じですが、感覚障害がよりはっきりします。視床出血では、出血後に視床痛という半身のひどい痛みを伴うことがあります。

③皮質下出血(10%) 頭頂葉、 側頭葉、 前頭葉などの皮質下に起こります。症状は、部位で違いますが、軽度~中等度の片麻痺、半盲、失語などがみられます。

④ 橋きょう出血(5%) 突然の意識障害、高熱、 縮瞳(2mm以下)、呼吸異常、 四肢麻痺がみられます。大きな橋出血は予後が不良です。

⑤小脳出血(5%) 突然の回転性のめまい、歩行障害が現れ、頭痛や嘔吐がみられます。

(3)脳出血の診断は
 頭部単純CTなどで脳出血・くも膜下出血・脳梗塞・脳塞栓などの鑑別を行います。脳出血の診断後は、高血圧性脳内出血が主であるため、高血圧性臓器障害を評価します。脳動脈瘤、脳動静脈奇形、 脳腫瘍による出血が疑われる場合は、脳血管撮影が必要です。
急性期
①心機能評価→心肥大・虚血性障害を心電図・胸部X線・心臓超音波
②腎機能障害→eGFR・クレアチニンクリアランス・尿蛋白・微量アルブミン
③肝機能障害・凝固系のチエック→血小板数・凝固検査(PT-INR、APTT)
④糖尿病(空腹時血糖・HbA1c)、栄養状態(血清アルブミン・総コレステロール値)
⑤呼吸循環管理→血液ガス分析、胸部X線検査
慢性期
①下肢深部静脈血栓症のチエック→Dダイマー(凝固,線溶状態の異常) 下肢静脈超音波
②頸動脈狭窄・壁在血栓のチエック→頸動脈超音波

(4)脳出血の治療は
 高血圧性脳出血の治療は、血腫と脳浮腫の治療です。血腫による脳実質の損傷を軽くし、再出血を防ぎ、圧迫で血腫周囲の障害を防ぎます。内科的治療は、 頭蓋内圧亢進に対する抗浮腫薬の投与、高血圧と呼吸の管理、水電解質のバランス、合併症を予防します。外科的治療の検討も同時に行います。
血腫増大は、約20%の患者さんにみられ、発症6時間以内に止まります。
脳浮腫は脳ヘルニアを起こして、予後に重大な影響を与えます。脳浮腫は発症3日目から強くなり、ピークは1~2週です。抗浮腫薬としてグリセオールとマンニトールを用います。

急性脳出血では脳血流調節機能が障害され、変動が大きいので、高血圧コントロールが、脳出血治療で最重要であり、難題です。急に血圧を低下させると脳血流量が減るので、ゆっくりとさせます。降圧の程度は降圧薬投与前の血圧の80%くらいにするのが適当です。一般に、慢性期での降圧の目標レベルは治療を開始してから1~3カ月の間に14090mmHg以下とするのがよいとされています。

脳出血に対して手術が適応するかの判断については、出血量が10ml未満の小出血または神経学所見が軽度な症状では、部位に関係なく手術適応はなく、意識レベルが深昏睡の症例も手術適応はないとするのが一般的な方針です。部位別では、被殻出血は意識レベルが傾眠から半昏睡で血腫量が31ml以上、小脳出血は最大径が3cm以上で進行性のものは手術適応があります。皮質下出血は血腫が50ml以上と大きく、意識レベルが傾眠から半昏睡の場合、手術が考慮されます。

そのほかの脳出血の合併症として重要なのはけいれん発作、発熱、消化管出血、電解質異常、高血糖、 下肢静脈血栓症などで、それぞれに対する治療も行います。

慢性期の治療
①高血圧を24時間厳格に降圧行い、減塩食、野菜果実摂取をすすめます。
②節酒できれば禁酒をすすめます。
③日常生活、身体機能を維持するため筋力リハビリテーションをすすめます。
④高血圧性心疾患・慢性心不全・冠動脈疾患、慢性腎疾患・腎硬化症、大動脈瘤・末梢動脈疾患の診断治療をすすめます。
⑤脳内出血後も、心房細動症例で虚血性イベントの高リスク群(CHADS2スコア2以上)であれば脳出血のリスクの少ない新規経口抗凝固薬 ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン投与を考慮します。
⑥脂質異常症の治療は、血圧や肝臓機能にをみながら慎重にします。

(4)脳出血に気づいたら

脳出血の患者さんでは、意識障害とともに呼吸障害を伴います。吐物による 窒息と誤飲が要注意です。吐いた場合は麻痺側を上に、顔と体を横にして誤飲を防ぎます。頭部を後屈させて下あごを持ち上げ、口を開けさせて気道を確保します。枕はあごが下がり、 舌根ぜっこんが沈下しやすいので用いません。救急車が来る前に、呼吸を確保してできるだけ早く専門病院に運び、治療を行うことが大切です。血圧の高い患者さんに突然に起こる、上下肢における持続性で片側の脱力は、脳出血を含めた脳血管障害の可能性があるので、軽くても神経内科、脳神経外科で検査することが大切です。

(5)脳出血の患者説明

脳の細い動脈である穿通枝(せんつうし)動脈に高血圧により動脈硬化などの病変が生じ、血管が切れて出血したり、微細小動脈にできた瘤が破裂したりして、脳の中に血の塊(血腫)ができる病気です。脳卒中全体の約6分の1を占めます。

血腫拡大を食い止めるために、高度の高血圧には降圧薬、急性胃潰瘍が発生したときは吐血や下血を防ぐ抗潰瘍薬、脳ヘルニアに対しては脳浮腫治療薬、けいれんには抗てんかん薬が投与されます。

発症して24時間以内、特に6時間以内は血腫が拡大するリスクが高く、症状は時間とともに進行し、しばしば意識障害や片麻痺などが悪化することがあります。また、脳室へ血腫が及んだり、脳幹や延髄など呼吸や循環をつかさどる重要な部位が圧迫される脳ヘルニアが引き起こされたりし、病状をさらに増悪させます。

死亡率は約15%、強い麻痺は後遺症として残ることが多い病気です。

出血した場所が大脳の基底にある被殻(ひかく)、皮質下、小脳などで、血腫が拡大しているときは、開頭して緊急手術を行います。手技としては、直達血腫除去手術、内視鏡的血腫吸引術、脳室の脳脊髄液の通過障害に対する脳室ドレナージなどがあります。

発症して48時間以上が経ち、しびれ、麻痺などの神経学的な症候が安定すれば、ベッドサイドでリハビリテーションが開始されます。意識が回復し、物を飲み下す力があれば、経口摂取を開始しリハビリテーションは本格化します。

普段の生活で気をつけてほしいこと

  • 塩分は1日6g以下に抑えましょう。
  • 野菜や果物を多く摂取しましょう。
  • 禁酒・節酒に努めましょう。
  • 冬の外出には帽子、マフラー、コート、靴下、ズボン下を着用しましょう。
  • 寒い時期には浴室やトイレに暖房を入れ、気温差に注意しましょう。

  • 自己判断で降圧薬をやめてはいけません。