【自転車愛好家の皆様へ】股間(会陰部)の痛みを伴うしこり、「サイクリスト結節」について
自転車を趣味やスポーツとして楽しむ方の中には、サドルが当たる部分に痛みを伴う「しこり」ができ、ご心配される方がいらっしゃいます。特に、そのしこりが精巣(睾丸)とは別の場所にある場合、それは「会陰部結節性硬結(かい いん ぶ けっせつせいこうけつ)」、通称「サイクリスト結節」かもしれません。
この症状は、その名の通りサイクリストに特有のもので、「バイカーズ・ノジュール」や「第三の睾丸」といった俗称で呼ばれることもあります。多くの場合、血液検査で炎症反応やPSA値(前立腺の指標)に異常が見られないため、感染症や前立腺の病気とは異なる、機械的な刺激が原因であると考えられます。
1.サイクリスト結節の原因:なぜ、しこりができるのか?
このしこりの正体は、腫瘍(がん)ではなく、繰り返される物理的な刺激に対する体の防御反応によって生じる組織の塊です。
自転車に乗っている間、サドルと私たちの体の間では、常に圧迫、摩擦、振動が生じています。特に、サドルに当たる骨盤の骨(坐骨結節)周辺の皮下組織には、継続的にごく小さなダメージ(微小外傷)が蓄積していきます。
体は、このダメージを修復しようとしますが、刺激が繰り返されることで修復プロセスが過剰になり、結果として組織が硬く変化したり(線維化)、ゼリー状になったり、内部に液体が溜まった袋のような構造が形成されたりします。これが、触れると「しこり」として感じられるものの正体です。
2.特徴的な症状と診察所見
サイクリスト結節には、以下のような特徴があります。
- 場所:サドルが直接当たる会陰部(股間)、特に陰嚢の付け根後方で、座った時に椅子に当たる骨の内側あたりに発生します。片側だけの場合も、両側にできる場合もあります。
- 触診:触れると、ゴムのような弾力のある硬さ(線維弾性)を感じることが多いです。下の組織に固定されて動きにくいこともあれば、ある程度動くこともあります。大きさは直径2~3cm程度が典型的ですが、個人差があります。
- 痛み:最も特徴的な症状は、圧迫による痛みです。特に自転車のサドルに座った時に強い痛みを感じます。自転車に乗っていない時でも、鈍い痛みが続いたり、しこりを押すと痛んだりすることがあります。この痛みは、単なる炎症だけでなく、硬くなった組織が周囲の細かな神経を圧迫することも一因と考えられています。
3.診断のための検査
問診と診察に加え、診断の精度を高めるために画像検査を行います。
- 超音波(エコー)検査:体に負担の少ない検査で、まず行われることが多いです。サイクリスト結節は、超音波では周囲の組織より黒っぽく、血流に乏しい塊として映るのが典型的です。
- MRI検査:しこりの状態をより詳しく評価し、悪性腫瘍など他の重大な病気の可能性を確実に除外するために非常に有用な検査です。線維化した組織を反映して、MRIでは黒っぽく映ることが多く、造影剤を注射しても大きな変化が見られないことが、悪性腫瘍との鑑別に役立ちます。
4.治療の基本方針
治療の基本は、原因となっている刺激を取り除くことです。
- 保存的治療(第一選択):最も重要な治療は、原因となっている自転車に乗ることを一時的に休止することです。安静にすることで、多くの場合、痛みやしこりの増大が落ち着きます。
- 再発予防のための調整:再発を防ぐためには、自転車の乗り方や設定を見直すことが不可欠です。専門家によるバイクフィッティングを受け、サドルの高さや角度、前後位置を最適化したり、ご自身の骨格に合ったサドル(会陰部への圧迫が少なく、坐骨をしっかり支えるタイプ)に変更したりすることが推奨されます。
- その他の治療法:上記の保存的治療で症状が改善しない頑固な場合には、ステロイドの局所注射や、最終的な手段として外科的な切除手術が検討されることもあります。ただし、しこりの境界が不明瞭なこともあり、手術は慎重に判断されます。
気になる「しこり」があれば、自己判断せずにご相談ください
会陰部のしこりは、ご自身で判断することが難しいものです。もし気になる症状がございましたら、安心してご相談ください。専門医が丁寧に診察し、正確な診断と適切な治療方針をご提案いたします。






