副甲状腺機能低下症
頻度★
要点
副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌や作用が低下することにより、副甲状腺機能亢進症とは逆に低カルシウム血症、高リン血症などを来す病気です。

(1)副甲状腺機能低下症とは
 副甲状腺からのPTH分泌が低下した特発性および続発性と、PTH分泌は保たれているにもかかわらずPTHの作用が損われている偽性とに分類されます。前者のうち、続発性には頸部の手術や外傷による副甲状腺の障害や、先天性の副甲状腺形成異常などが含まれます。これらと違い、原因が明らかでないものを特発性と呼んでいます。

 偽性副甲状腺機能低下症は、PTHによる細胞内シグナルの伝達機構(メカニズム)の障害が原因で、その異常部位によりさらに細かく分類されています。

(2)はっきりした症状がでにくいのがのポイント
 副甲状腺機能低下の症状は、低Ca血症による症状が主です。手足のこむら返り、ぴりぴりするしびれ感、けいれん(テタニー)発作などがみられます。ひどい場合には全身のこわばりのけいれん発作が起こり、意識を失うこともあります。このため、てんかん発作と間違えられることもあります。そのほかに白内障やの大脳基底核の石灰化などもみられることがあります。

Chvostek徴候  わずかに口をあけた状態で頬骨弓下の顔面神経上を軽く叩くと鼻翼、眼瞼、口角などが攣縮します
Trousseau徴候  血圧計のマンシェットを巻いて収縮期血圧より20mmHg以上高くなるまで加圧し、3分間そのままにしておくと手首屈曲、母指内転、手指関節屈曲がみられます。4分以上出現しなければ陰性。過換気で誘発しやすい

偽性副甲状腺機能低下症のなかには、オールブライト遺伝性骨異栄養症と呼ばれる低身長、短く太い首、第4、5指の短縮などの特徴的な体型がしばしば認められます。

(3)副甲状腺機能低下症の診断
 低カルシウム血症と高リン血症があり、腎機能低下(CrクレアチニンCr<2.0mg/dl )がなければ副甲状腺機能低下症と診断されます。PTHの分泌が低下する特発性および続発性では、インタクトPTHという測定法で30Pgml以下になります。インタクトPTHが30Pgmlを超える場合には偽性と診断されます。副甲状腺ホルモンPTHは 全長PTHの他に部分の断片も存在するため、インタクトPTHとは全長PTHのみ測定する最も高感度な方法です。ただ採血後直ちに血清分離市内と不安定なため分解してしまいます。

 偽性副甲状腺機能低下症の場合には、PTHの細胞内シグナルの異常部位により病型を決めるために、PTHを注射して反応をみるエルスワース・ハワード試験という検査を行います。偽性副甲状腺機能低下症の主症状は副甲状腺機能低下症同様の低カルシウム血症ですが、その発生機序はPTH(副甲状腺ホルモン)分泌低下ではなく、PTHの内分泌標的組織(腎、骨)における不応性である。偽性副甲状腺機能低下症では細胞外液カルシウム濃度の低下に対応して血中PTH濃度が増加しており、ときにはPTH分泌の亢進によりPTH不応性が代償され低カルシウム血症がみられないこともある。

(4)副甲状腺機能低下症の治療
 アルファカルシドール(アルファロール、ワンアルファ)またはカルシトリオール(ロカルトロール)という活性型ビタミンD製剤を内服します。半減期がながいことからアルファカシドールを使用することがおおいです。活性型ビタミンDは、ビタミンというよりは体内でビタミンDからつくられる一種のホルモンで、PTHとともに血中カルシウム濃度を維持するのに大切な役割を果たしています。
Ca製剤は腎結石・腎機能低下のリスクとなるため併用しません。 治療の目的は、低カルシウム血症によるテタニー発作やしびれをなくすことで、必ずしもカルシウム濃度を完全に正常化する必要はありません。

 活性型ビタミンDを内服している副甲状腺機能低下症の患者さんでは、血中のカルシウム濃度に比べて尿中のカルシウム排泄が増えやすくなります。そのため、尿路結石にょうろけっせきや腎機能低下の予防に注意し、尿中のカルシウム排泄を尿中のクレアチニン排泄の30%以下に保つことが必要です。副甲状腺機能亢進症でも血中Caが高値のため亢進症でも同様に尿中カルシウムが増えます。

(5)低カルシウム血症の診断
 血清カルシウム値 8.5mg/dl以下のとぎ
★血清リン値 3.5未満
一日尿中Ca排泄200mg/dl未満
→くる病/骨粗鬆症がある ビタミンD欠乏または遺伝子異常でビタミンDが働きにくい
→くる病/骨粗鬆症がない 急性膵炎・骨形成骨転移 骨粗鬆症のくすり(ビスホスネート製剤)さんでは、血中のカルシウム濃度に比べて尿中のカルシウム排泄が増えやすくなります。そのため、尿路結石にょうろけっせきや腎機能低下の予防に注意し、尿中のカルシウム排泄を尿中のクレアチニン排泄の30%以下に保つことが必要です。副甲状腺機能亢進症でも血中Caが高値のため亢進症でも同様に尿中カルシウムが増えます。
★血清リン3.5以上
血中クレアチニン 2以上 慢性腎不全
2未満 インタクトPTH 30pg/ml未満 PTH不足性副甲状腺機能低下
                    30pg/dl以上 Ellsworth-Howard試験を行う cAMP排泄測定
                       排泄促進あり 偽性副甲状腺機能亢進症 Ⅰ型
排泄促進なし 偽性副甲状腺機能亢進症 II型

 

 

副甲状腺機能低下症は、頸部にある副甲状腺のはたらきが十分でないためにホルモン分泌が低下する(分泌不全)、または分泌された副甲状腺ホルモンのはたらきがうまく発揮されない(作用不全)ために、低カルシウム血症をきたす病気です。

症状としては、手指の先や口まわりのしびれやこわばり、ピリピリ感が現れるテタニー症がみられます。神経が不安定になったり、まれにカンジダ症などの皮膚症状が生じたりすることもあります。

甲状腺がんの手術に引き続いて生じる場合がありますが、原因がはっきりしないものも少なくありません。遺伝性の場合もあります。

カルシウム濃度をコントロールするために活性型ビタミンD製剤を服用します。コントロールできれば予後は良好で、生命に別条はありません。

息が切れるほどの激しい運動はテタニー症状が誘発されるのでやめましょう。

テタニー症状が出たときに不安感から過呼吸状態になると症状が増悪します。このようなときは落ち着いて深呼吸を繰り返し、安静を保ちましょう。ビタミンD製剤を追加しても短時間で症状の改善できません。

安静にしても症状が治まらない場合や、テタニー症状手指の先や口まわりのしびれやこわばり、ピリピリ感が現れるが何回も起きるようなときは受診しましょう。

普段の生活で気をつけてほしいこと

  • 3食をきちんととりましょう。
  • 普段通りの生活をしましょう。

  • カルシウム剤や乳製品を必要以上に摂取してはいけません。
  • アルコールは控えましょう。
  • 激しい運動を控えましょう。