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(1)鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)とは
鼠径部と呼ばれる左右の脚のつけ根の部分から、腸や卵巣、内臓脂肪などがおなかの中から皮膚のすぐ裏側まで飛び出してしまう病気です。一般的には「脱腸」と呼ばれています。
①外鼠径ヘルニア 内鼠径輪に腸が入り込む 乳幼児 壮年期男性
②内鼠径ヘルニア 鼠径管後壁に腸が入り込む 中年男性 肥満の人
③大腿ヘルニア  大腿管に入り込む 中年以降女性に好発

鼠径ヘルニアには、外(がい)鼠径ヘルニア、内(ない)鼠径ヘルニア、大腿(だいたい)ヘルニアの3種類があり、それぞれ内臓や組織の飛び出し方に違いがあります。
(2)鼠径ヘルニアの原因
外鼠径ヘルニアは、内鼠径輪と呼ばれる穴を通り鼠径管の中に腸などが入り込むことで起こります。乳幼児期の男児や壮年期(50歳代)以降の男性に多く鼠径ヘルニアの中で最多9割です。乳幼児の男児は胎児の時に自然に閉じるはずの腹膜の穴が開いたまま残っているものに起こり、成人とは、原因も治療も異なります。
内鼠径ヘルニアは、内鼠径輪よりも内側の鼠径管後壁が弱くなって内臓が飛び出ることによって起こり、中年以降の男性、肥満気味の人に好発します。
大腿ヘルニアは、内臓が大腿管という管を通って出てきてしまうもので、加齢や出産などで筋肉や筋膜が緩んだり、重たい物を持つなど腹圧がかかるような状態が続いたときに起こり得るヘルニアです。
(3)鼠径ヘルニアの症状
鼠径部という、太ももの内側の部分がやわらかい膨らみおなかに力をいれると大きくなることもあります。中身は腸で指で膨らみを押すと引っ込むことが多いのですが、放置すると、腸が周囲の筋肉で締め付けられて押しても戻らない「嵌頓(かんとん)」という危険な状態になることがあります。
腸が狭窄して血流が途絶えることから、痛み、便秘、嘔吐など腸閉塞の症状が出ると、嵌頓状態の場合は、壊死や敗血症を引き起こして緊急手術を要する場合もあります。
(4)鼠径ヘルニアの検査
視診と触診で診断できますが、必ずしも受診時に起きていないことも多く、自宅で膨らみを確認できたらスマホなどで撮影して医師に確認してもらうとよいでしょう。陰嚢水腫やリンパ節などでも同様の症状が見られますので医師に確認してもらうことが大切です。鼠径ヘルニアと診断されたら、脱出している部分の状態を詳しく見るための超音波検査や下腹部CT検査を行うことがあります。
(5)鼠径ヘルニアの治療
鼠径ヘルニアの基本的な治療は手術です。
腸などが脱出してしまう穴(筋肉の隙間)を、人工のメッシュ(網)で内側からふさぐ手術をします。左右両側にできることがあり、片側の鼠径ヘルニアを手術した後に反対側で発症するケースもあり両側同時に手術をすることもあります。。手術後は1週間ほどで仕事や家事、自動車の運転、散歩などができますが、下腹部に力が加わるような動作は再発することがあるため2~3週間は力仕事や激しい運動は避けたほうが良いでしょう。便秘にならないよう気を配ることも大切です。
手術を行うと、鼠径ヘルニアの症状はなくなります。見た目が元通りになり、腹部の違和感がなくなるだけでなく、鼠径ヘルニアの悪化した状態である嵌頓状態になることを予防できます。